今日の1本 メリダとおそろしの森(2012)瀬戸川豊のレビュー
『ピクサー史上最も暗い映画』。
監督のマーク・アンドリュース氏は『メリダとおそろしの森』をそう評している。
今作はバイキング時代のスコットランドにて、ごつごつした城に住む赤毛くりくりパーマのじゃじゃ馬姫さまが主人公である。
ディズニー・プリンセスという言葉から思い描くきらきらした華やかさからはほど遠く、鬼火(wisp)の導きで亡国を訪れたり、首領たちの闘争にメリダが関わってあわや戦争になりかけたりというシリアスさは確かに普段のピクサーらしからぬところがある。
しかし全編が重苦しい雰囲気かというとそうではなく、コミカルなシーンもちゃんとある。
熊になってしまった王妃が歩く時のぷりぷりしたお尻や、魔女が「木彫りのおばあさん!」と主張しつつありえない手腕で木彫りを量産するシーンは私のお気に入りだ。
この映画を見る時に何といっても注目していただきたいのは、スコットランドの自然の美しさである。
実写でもないのに、と首を傾げられるかもしれないが、複数人のビジュアルスタッフが何日も念入りに現地取材しただけのことはある。森は空気の味まで伝わってきそうな緻密さで描かれ、城はそこに住む人々の実際の暮らしが思いやれるリアリティがある。
中でも私が目を見張ったのは“水の美しさ”だ。
夕日に照らされた滝や、岩場にぶつかってはじける飛沫。
素人でもこれらをあたかも本物のように見せる描写が難しいとの想像はつく。
だが作中では実写に遜色なく、「ロケ地で取った動画にアニメーションを合成した」と言われたら信じてしまいそうなクオリティで再現している。
その自然の美しさを存分に発揮している森は作中何度も登場し、観客の目を楽しませてくれること請け合いだが、果たしてタイトル通り『おそろし』いのかといえば、実のところ全くそんなことはない。
この映画にも他のディズニー映画と同じように挿入歌が何曲か存在しており、その中の一曲はメリダが流鏑馬をして森で自由を満喫するシーンで、もう一曲はエリノア(熊)と川で鮭を取って二人の距離が縮まるシーンで使われている。
情景を書いただけでもお分かりだろうが、二曲とも清清しく明るい曲である。この映画に森に対してマイナスイメージを持たせるような場面はほとんど無い(鬼火はモルデューの元に導いたりもしたが、それはメリダの運命にとって必要なことだったからなので、私はマイナスとは感じなかった)。
『メリダとおそろしの森』というタイトルと、弓を構えた雄雄しいメリダの姿を見て、「森にいる恐ろしい魔女や動物と王女様が果敢に戦うストーリーなんだ」と想像して鑑賞した人はさぞや肩透かしを食らっただろう。原題の『Brave』を知っていればなおさらである。
タイトルの是非はともかく、『メリダ』のメインテーマは母子愛と衝突であるのは間違いない。
ではそのテーマは描ききれていたのかというと、残念ながら不足であると思った。
母エリノアが自分の知らない世界を見せてくれた娘メリダに対して寛容になるのは分かるのだが、メリダがエリノアのように首領たちを説得するべく、あっさり結婚を受け入れようとしたのは解せなかった。
魔法を使ってでも結婚を拒否したかったのなら、母親を熊にしてしまったことに深く後悔の念を抱くか、理想的な后である母親を見直すようなシーンが欲しかったというのが筆者の感想である。
メリダとおそろしの森
監督: マーク・アンドリュース
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