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CINEMAバリQ

【エクステリトリアル】
「息子を返せ」――ドイツ発、国家機関に巣食う闇と戦う母の逆襲劇※ネタバレあり

あの日、彼女は確かに息子と一緒にいた──。だが、誰もそれを信じようとしなかった。

【あらすじ】

PTSDを抱える特殊部隊の元兵士サラは、アメリカ領事館のなかで最愛の息子を見失ってしまう。彼女は職員たちにそれを伝えるが、「あなたはひとりで来館した」と職員らは主張。監視カメラの映像も改ざんされていた。

サラは「このなかでは誰も信用できない」と悟り、元特殊部隊のスキルを駆使してただひとり、厳重警備の広大な建物で息子を捜索し始める。

だが――奮闘むなしく「すべてはPTSDの症状だ」と洗脳されそうに――

ところが、そのとき、この建物内で “たったひとりの仲間” と再会。サラの逆襲劇が始まる。

国家的密室を、母がぶち破り勝利する物語。

【レビュー】※ネタバレします!

●  ほんとうに戦っているんじゃなかろうか?

元特殊部隊のサラは、よりによって1歩踏み入れたらそこは「外国」のアメリカ領事館で、何より大事な息子を見失ってしまいました。ビックリするほど融通が利かない場所です。

そう、題名のとおりそこは領土外、エクステリトリアルなのです。

しかも、サラはPTSDを抱えており、人を傷つけたこともあるので、実母を始め周囲からまともに取り合ってもらえません。

それでも、とにかく諦めない女サラは、息子がアメリカ領事館のトラブルに巻き込まれて姿を消したと確信し、たったひとりで真実を追い続けるのでした。

この映画のおもしろさは、「疑われようが、見放されようが、母の愛は最強」という安心感と、「誰が味方かわからない」というハラハラ部分、そして圧巻の「接近戦スキル」です。

本当にアクションシーンは痛そうだし、完全にいまケガしたよな? と感じるときもあるので、サラを演じたジャンヌ・グルソーさんは、相当体を鍛えてこの映画に挑んだのではないかと思います。彼女がぶん殴ると相手(ガタイのいい男性)もマジで痛そうでした。

冒頭で、彼女がトレーニングしている姿は、ほとんど女版『ジャック・リーチャー』です。(※トムさんの映画版ではなく、アラン・リッチソンさん演じるジャック・リーチャーのほう)

いやー、次回作ではPTSDうんぬん無しにして、死ぬほど強い女性の無双っぷりを徹底して演じてほしいものです。

●「ただひとりの味方」ができあがるまで

物語の始めからサラは孤軍奮闘するわけですが、途中、ある大切な出会いがあります。それは、領事館に監禁? されていたイリーナ(本名ではない)という女性との出会い。

じつは彼女、ベラルーシの反体制活動家の娘。反体制活動家であった父親は、ロシア政府に殺害されてしまいました。

その際に彼女はアメリカ大使館に逃げ込み、CIAによってフランクフルトに連れてこられたのですが――アメリカにいる母親の元へ行きたい彼女の意向をのらりくらりとかわし、足止めされること2か月近く。

「ロシアの犯罪に関する証拠となるデータ」が入ったUSBメモリを隠し持っている彼女は、自分の身が危険であることを十分承知していました。

最初、サラとイリーナはお互いを信用せず、メリットがあるかないかだけで行動を共にします。しかし、一緒に危機を乗り越えるたびにその友情が深まり、お互いに「ただひとりの味方」となったのです。

サラは強いが、スカッとフルボッコという感じでもなく、イライラさせる展開も多い物語。複雑な背景があり、一筋縄ではいかないふたりの女性がタッグを組み、逆襲を始めるあたりから物語はグッとおもしろくなります。

しかも、じつはこの陰謀の主なターゲットは、サラと息子ではなくこのイリーナでした。

こうして、苦境に立たされても立ち向かう、最強バディの結成です。

● 最後まできっちりケリをつけてくれるところが◎

最近の映画って、ラストに余韻を残すタイプが多い気がします。

助かったのか、助からないのか、正しかったのか、正しくなかったのか、味方だったのか、そうじゃなかったのか。

どっちなんだい!

子どものころ「Friday Night Fantasy」と黄昏の海で始まる金曜ロードショーを楽しみにしていた筆者は、当時に多かった “わかりやすい映画” を懐かしく感じるわけです。

その点、この作品はモヤモヤを残しません。

  • 元気な息子の姿
  • 悪人のその後
  • 小悪党のその後
  • ただひとりの仲間のその後
  • ギクシャクしていた母の姿
  • そして、主人公・サラと息子のその後まで

この映画はぜーーーんぶ描いてくれたし、報告してくれました、これぞ、本当のスッキリ。

もちろん、サラが瀕死の状態にありながら機転を利かせて悪事を暴いたときにスカッとし、拍手喝采が起こりました。でも、そのあとすべての「その後」がわかってこそ、「あーーー―本当にスッキリした」っちゅうもんではないでしょうか。

つまり、この『エクステリトリアル』は、途中はイライラさせるけれど、本当にやり切った満足感が味わえるタイプの映画なのです。

(ライター中山陽子)

『エクステリトリアル』(2025)

監督:クリスティアン・ツバート
出演者:ジャンヌ・グルソー , ダグレイ・スコット , レラ・アボヴァ

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