【ジャッキー・ブラウン】
パムグリアとおじさん俳優に痺れるタランティーノ作品

ジャッキー・ブラウン　映画あらすじ

罪は逃れたものの犯罪にかかわった過去があるため、低い賃金の航空会社で働くしかない中年の客室乗務員ジャッキー・ブラウンは、武器商人であるオデールの運び屋をして収入の足しにしていた。しかし、ある日、彼女を待ち構えていた捜査官によってそれが暴かれる。だが捜査官らは彼女ではなく、黒幕であるオデールの情報を欲していた。それは、ジャッキー・ブラウンの身を危うくすると同時に、彼女が最後の勝負にでるべきチャンスの到来を示唆していた。

ジャッキー・ブラウン　映画レビュー

手入れをしていないアンティークなカラクリ箱のように、古びてボロボロなのに沢山のカラクリが隠されている。乱暴に開かれた部分を順に閉じていくと、収集がつかないとも思えたパーツが、不思議と最後にはピタリとハマる。『ジャッキー・ブラウン』はそんな映画だ。そのカラクリ箱をいじると、どこからともなくプリミティブでファンキーなR&Bが聴こえてくる……といったところだろうか。

この映画のヒロインであるパム・グリアが、監督のクエンティン・タランティーノにとって「夢の女」であることは有名なこと。今作品が公開される1年前には、ティム・バートン監督の『マーズ・アタック！（1996）』にも出演していた。その時も、同監督がパム・グリアの大ファンなのでキャスティングされたと、やたら耳にしたのか雑誌で目にしたのか忘れたが記憶がある。ただ、それにより初めてパム・グリアをハッキリと認識したが、さほど興味がわかなかった。

しかし翌年、猛烈にファンキーな映画『ジャッキー・ブラウン』で、女豹のようなヒロインを演じる彼女を目にして、がぜん興味がわいてきた。「そんなに魅力的なのか？」と彼女を注目しているうち、スルメイカならずビーフジャーキー並みに彼女が後を引く“うまみ”を放ち、すっかりファンになってしまったというべきかもしれない。

そこで、さっそく彼女が名だたる監督たちを骨抜きにしたという、70年代の映画を観てみた。すると、もはやズッコケるほど「ガン（銃）」「おねえちゃん」「犯罪を犯す男たち」という、タランティーノ監督作品の骨組みを構成する3大要素にあふれかえっていた。正直、内容よりもパム・グリアのボロ～ンとでてくるダイナマイトボディや、エッチな服とポーズで銃を構えたり、男性がもつサディスティックな本能を刺激するような、パム・グリアの悲痛極まりない表情しか覚えていない。

しかし、それを観て、「そうか、監督たちを骨抜きにしたのは、小奇麗な女ではなく、生々しい、むせかえるほどのフェロモンを放つ女だったのだ」と、よ～くわかった。たぶん、監督らは思春期のころ、かぶりつきで彼女のエロい映像を観ていたんだろうなあ。ジョン・カーペンター監督も彼女のファンだったというはなし。

しかし、この『ジャッキー・ブラウン』においては、強烈なフェロモンを放つというよりも、塩梅よく年をとり、心地いい程度にしなやかでクールな女を演じていた。

そんな彼女を取り囲むのは、安心のうえに安心がのっかるような優れた演技力と、味わい深い魅力をもつおじさん俳優たちだ。当時まだ40代～50代だったサミュエル・L・ジャクソンにロバート・フォスター、ロバート・デ・ニーロ、マイケル・キートンらは、侮れない女豹によって知らず知らずのうちに翻弄される男たちを、なんというか……粋にカッコ悪く演じていた。

ボビー・ウーマックの「ACROSS 110TH STREET（110番街交差点）」や、ブラザーズ・ジョンソンの「STRAWBERRY LETTER #23（ストロベリー・レター＃23）」、デルフォニックスの「DIDN’T I BLOW YOUR MIND THIE TIME（ディドゥント・アイ・ブロウ・ユア・マインド・ディス・タイム）」、ランディ・クロフォードの「STREET LIFE（ストリート・ライフ）」などなど、数々のファンキーな音に酔いしれるうち、映画は幕を閉じる。

そして、さすがは映画と好きな俳優たちへの情熱が深いタランティーノ監督。彼らの魅力を、よくここまで曲者感たっぷりに引き出したものだ。もう新作映画では目にすることがなくなったブリジット・フォンダのピチピチした姿や、若かりし頃のクリス・タッカーがやはり声が高いことを再確認できることも含め、この古びたカラクリ箱の中には、思いもよらないファンキーな宝物がたくさん詰まっている。

ライター中山陽子でした。

 

ジャッキー・ブラウン（1997）

監督　クエンティン・タランティーノ
出演者　パム・グリア／サミュエル・L・ジャクソン／ロバート・フォスター／ブリジット・フォンダ

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