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CINEMAバリQ

【サイレンサー】
義理人情に厚い殺し屋の、不器用な大人の恋にキュンとするクライムサスペンス ※ネタバレあり

『サイレンサー』あらすじ

裏社会で名を馳せたベテランの殺し屋チャーリーは、誰に頼まれたわけでもなく、年老いたボスの世話を続けていた。そんなある日、彼は「ロロ」という男の抹殺を命じられるが、無理やり組まされた未熟な相棒のせいで、大きなミスをしてしまう。

そこでチャーリーは状況を打開すべく、ロロの元妻マーシーに協力を乞い、襲いかかる窮地をなんとか脱する。そのなかで、少しずつ心を通わせていくチャーリーとマーシー……。

だが、ベガー率いる新興勢力に、チャーリーの仲間が皆殺しにされてしまったことにより、彼の命を懸けた復讐の戦いが始まる。

『サイレンサー』レビュー※ネタバレします!

● 原題も邦題も、内容に合っていない件

ピアース・ブロスナンさん主演の、この映画の邦題は『サイレンサー』。原題は『Fast Charlie(早業チャーリー)』です。

じつは、このタイトルふたつとも、映画の内容にも雰囲気にも合っていません。

本作は派手なアクションでターゲットを次々と素早く片付けるような娯楽作ではなく、老境に入ったヒットマンが、変わりゆく組織や時代の波の中で自らの矜持を通そうとする、渋くて哀愁漂う人間ドラマなんですよね。

かつ、人生を重ねてきた大人が、惹かれた相手との不器用な距離を行き来する、静かな「キュン」が生まれる作品なんですよ。

それなのに、

『サイレンサー』と『早業チャーリー』って、

なんやねん。

配給側の意図は、かつてのスタイリッシュな『007』シリーズや『トーマス・クラウン・アフェアー』(1999)のイメージを観客に想起させ、「あの格好いいピアース・ブロスナンがまた見られる」と思わせたかったんですよねぇ。

でも、渋くて格好いいけれど、スタイリッシュなわけではないんです。深く刻まれた “しわ” で納得させるような、心に入り込んでくる “説明しすぎない” 表情やセリフがいいんですよ。

チャーリーが抱える孤独や優しさ、作品が持つほろ苦いトーンといった本質が、これらのタイトルに消されてしまっているような感じがしたので、大変恐縮ながら文句を言わせていただきました。

つまりは、そのタイトルでは「もったいない」くらい、この作品が魅力的だった、ということなんです。

ちなみに、この映画の原作は、ハードボイルド小説の『Gun Monkeys』です。こちらのタイトルも最初は「あれ?」と思いましたが――組織に使い捨てにされる、下っ端の殺し屋的なイメージなんでしょうかね。

替えはいくらでもいる「使い捨ての兵隊」だったはずのチャーリーが、実際には一筋縄ではいかず、おまけに情にも厚く、唯一無二の存在であったことへの皮肉っぽいユーモアのような気もします。

そう考えると、映画の邦題も原題も、いい面を見ていくべきかもしれません。とにかく映画は人々に観てもらわなければ何も始まらないので、観てもらうためには “わかりやすいタイトル” が、必要なんですよね。

(と、大人な感じで締めくくっておく)

● 心に沁みる、彼らの言葉の数々

この映画の魅力は、老ヒットマンが見せる義理人情と、彼よりだいぶ若い女性マーシー(演じるのはモリーナ・バッカリンさん)との、臆病な恋の様子。そして、心を掴んで離さない数々のセリフにあります。

いくつか、筆者がグッときたものを挙げてみましょう――。

マーシー「私を好きにならないで」
チャーリー「手遅れだ……」

(ぐぉーーーーーーー!!!!😍)

マーシー「落ち込むことと、強くなることと、労力は同じよ」

(むむむむ! そうか!!!😳)

チャーリー「これからどうする?」
マーシー「生き続ける」

(おおおお!!!!🤩)

最初、マーシーは敵対的で、やたら冷めていて、ひどく感じの悪い女性でした。しかし、時間が経つほど、いかに “いい女であるか” がわかります。マイナス点から始まっただけに、余計 “いい女っぷり” が増長されちゃうんですよね。

裏社会の人間だった元夫のせいで、彼女は世界の汚さや理不尽さを十分に知り尽くしている感じがします。だからこそ、普通なら心が荒んでしまうか、あるいは心を完全に閉ざしてしまうような状況なんですが……。

一風変わってはいるものの、意外と自然体で、自分の人生を、ちゃんと生きようとしているんです。また、いまある状況を受け入れ、自分の感情を認め、その都度しなやかに形を変えながら生き抜いていく力もあります。

そして、何と言っても彼女の根底にある「情」の深さ。彼女自身も傷ついているのに、孤独な老ヒットマンであるチャーリーの背負う影や、彼の内面にある優しさを敏感に察知するんですよね。

若者のような盲目的かつ衝動的な恋ではなく、お互いの人生の痛みをそっと分け合い、静かに寄り添う成熟した愛というか、情というか……。

なんにせよ、彼女が老ヒットマンのチャーリーにとって、最後に見つけた「光」であったのは間違いありません。

● ジェームズ・カーンさん、最後の姿

そして、この映画の深みを決定づけているのが、チャーリーのボス、スタンを演じたジェームズ・カーンさんの存在です。残念なことに、この作品が彼の遺作(2022年没)になってしまいました。

新世代のギャングたちが、効率や利益だけで、冷酷に人を切り捨てるビジネスライクなやり方を優先するのに対し、スタンが重んじたのは義理と人情です。もちろん、悪いことはたくさんしたでしょうが(当然それはいかんよ😅)、裏社会に生きつつも、人間としての最後のモラルや誠実さを失わなかったからこそ、チャーリーもあれほどまでに、恩義を感じたのではないでしょうか。

痩せて弱々しくなりながらも、チャーリーを弟か息子のように想い、信頼し、物忘れをしながらも導いて、優しい微笑みを浮かべるスタン。それを演じたジェームズ・カーンさんは、なんだか本物の「スタン」のように思えました。

ジェームズ・カーンさんといえば、映画史に残る傑作『ゴッドファーザー』でマフィアの長男ソニー・コルレオーネを演じた伝説的な俳優さんです。

当時は血気盛んな「若き狂犬」を演じた彼が、人生最後に演じたのは、老い衰え、時代の波に取り残されながらも、部下に慕われ続けた人情味あふれるボス……。

彼の演技はこの映画に、「冷たいだけではない、熱いノワールの血」を注ぎ込んでくれた気がします。最後までチャーミングで、素敵な俳優さんでした。ご冥福をお祈りいたします。

(ライターgatto)

『サイレンサー』(2023)

監督:フィリップ・ノイス
出演者:ピアース・ブロスナン , モリーナ・バッカリン , ジェームズ・カーン , ベンガ・アキナベ , トビー・ハス

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