【デビルズ・ダブルある影武者の物語】
独裁者の息子を演じたドミニク・クーパーが光る映画
デビルズ・ダブルある影武者の物語 映画あらすじ
イラク軍に所属するラティフは、家族思いの正義感にあふれた男性。しかしある日、イラク大統領の息子ウダイ・フセインのもとへ強制的に連れていかれる。高校の同級生でもあったウダイは、自分によく似ているラティフに対し影武者になれというのであった。拷問されても拒むラティフだったが、彼の家族にまで危険が及ぶと知り、ウダイの影武者として生きることを決意。しかし、ウダイはラティフの想像をはるかに超える、狂気に満ちた男だった……。
ラティフ
デビルズ・ダブルある影武者の物語 映画レビュー
この映画は、イラクの独裁者といわれたサダム・フセインの息子ウダイ・フセインと、その影武者の物語である。影武者は、命を狙われる危険がある重要人物の、身代わりとなるソックリさんだ。実際にその影武者だったというラティフ・ヤヒア氏が書いた自伝がもとになっている。その背景に加え、ドミニク・クーパーによる1人2役の演技が、この映画に強烈なインパクトを与えている。
映画のなかで、ウダイ・フセインになりきったラティフが、「これで(こんな演技で)いいか?」と側近に確認するため、演じるのを中断し本来のラティフに戻るシーンがある。悪魔のプリンスからまともな男へと戻る、ドミニク・クーパーの完璧な演技に惚れぼれした。
ただ、下半身に節操がない鬼畜ウダイのやりたい放題が、事実だと思うと吐き気がする。無垢な少女や、幸せそうだった若い夫婦への惨過ぎる仕打ちにはらわたが煮えくり返り、ついでに身勝手な情婦の言葉にうんざりする。これでもかと胸くそ悪い気分にさせる映画だが、ドミニク・クーパーの演技は一見の価値がある。
でも残念なことに、終盤の展開はお粗末な印象だった。原作にある要素を映画にまとめたせいかもしれないが、実際には意図があったにせよウダイのバースデーパーティへの参加は意味不明に見えたし、逃亡の地で銃撃された場所に平気で戻ることも謎。花婿の役割はあまりにも酷だし、復讐計画は驚くほどずさんだ。自分を犠牲にして守ったはずの家族を、結局は危険にさらすラティフにも疑問符が飛び交う。
それでも、本物のラティフ・ヤヒア氏の額にある大きな傷が、その時の過酷さを物語っている限り、結局この映画には有無を言わせない「真実」という重石がある。実際そんな状況下に置かれたら、天地は逆になるかもしれないし、朝日は西から登るかもしれない。そもそも、はた目にキッチリと順序立てられた行動なんて、ほとんどの人ができないのだから。
なお、最初まったく分からなかったが、ウダイの情婦サラブを演じていたのは、『スイミング・プール (2003)』のフランス人女優リュディヴィーヌ・サニエだ。脱ぎっぷりやコケティッシュな魅力は相変わらずだが、髪の色を変えイラク人女性のような化粧にすると、ここまで印象が変わるのかと驚かされた。
ちなみに、登場人物のなかでラード・ラウィ演じるムネムという人物がいる。フセインの部下としてウダイを守るため何でもするが、実際には常識人だとわかる。紳士で上品なロマンスグレーのムネムも実在の人物ならば、フセイン政権崩壊後の彼がどうなったのか、やたら気になって仕方ない。
ライター中山陽子でした。
デビルズ・ダブル ある影武者の物語(2011)
監督 リー・タマホリ
出演者 ドミニク・クーパー/リュディヴィーヌ・サニエ/ラード・ラウィ/フィリップ・クァスト
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