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CINEMAバリQ

【君よ憤怒の河を渉れ】
今観るとほぼコントの高倉健さん主演映画

君よ憤怒の河を渉れ 映画あらすじ

ある日突然、見たこともない女から強盗強姦の罪で告発され、警察に連行された東京地方検察庁刑事部検事の杜丘冬人は、その後も見知らぬ男にカメラを盗まれたと告発されてしまう。杜丘は無実を主張したが、あらゆる証拠は杜丘冬人が犯人であると示していた。自分が完璧な罠にはめられたと悟った杜丘は逃走し、身の潔白を証明するため独自に調べ始める。しかし、行く手には彼を追う警察と、見えない敵が立ちはだかっていた。

 

君よ憤怒の河を渉れ 映画レビュー

またもや、すごい映画を観てしまった。

まだ若かりし高倉健、中野良子、原田芳雄、倍賞美津子、池部良、田中邦衛、伊佐山ひろ子、大滝秀治、西村晃、大和田伸也、下川辰平、吉田義夫といった、とにかくすごい面々が出演しているハードボイルドなサスペンス・アクション映画なのに、どの角度から見てもコントだったのだ。

映画は、バタバタと走る女と、それに従う警察官たちの登場でいきなり始まる。彼女が「この男よ!この男が私のお金と宝石を盗んだのよ!」と騒ぎ立てながら指さすのは、眼光の鋭い身なりのいい男だ。それが、健さん演じる杜丘冬人である。おまけに、また違う男からも指をさされる。「俺のカメラを盗んだのはこの男だ~」

しかし、犯人とされた杜丘冬人は、本来ならば法を守る側にいる検事だ。しかも彼は、まったく身に覚えがない様子である。よしよし、なにか裏があって罠にはめられたんだな。家宅捜査で出てきた証拠がストレート過ぎて思わず「ブッ」と吹き出したが、回りくどい演出もないし、これからジェットコースター的に面白い展開になりそうだ……。

とは思ったものの、数々の疑問が生じる。

そもそも高収入なエリート検事が地味なアパートへ強盗に入り、お金と宝石を盗んだとか、強姦したとか、カメラを盗んだとか不自然極まりない。しかも、「検事が犯人だと証言した女と男は偽名だった」って、証言した時点で素性を調べとけ。

まあでも、気を取りなおして映画を観すすめる。

が、しかーし、とうとうこのハードボイルドな映画を、コントにしてしまう決定打が放たれたのだ。

ついには殺人罪で警察に追われ、命まで狙われる杜丘がフラフラになりながら森の中をさまよっていると、「キャー!」という女性の悲鳴が聞こえる。驚いた杜丘が急いでその場に駆けつけると、女性がメッチャ必死に蝉のごとく木にしがみついている。そのしがみつき方にダチョウ倶楽部っぽいものを感じ、またもや「ブッ」と吹き出したが、本当に2度見させたのは凶暴なクマの存在だ。

「たまたまライフル銃を持っていたハードボイルドな主人公が、クマに襲われそうになっている美女を発見した」というシーンなので、ロマンスを予想させ、その後の展開への影響を期待させる大切なシーンなのだが、

いくらなんでも「着ぐるみ感丸出し」なクマのインパクトが強すぎて、

もうその部分にしか目がいかなくなってしまう。もはやクマではなく、「完全に人が入ったクマ」なのだ。 ゆるキャラまでとはいわないが、遊園地の子供向けイベントの着ぐるみにしか見えないのである。

まあ、でも仕方ない。1976という年代なのだ。今CGと本物の区別がつかない時代に生きる人間が、四の五の言っても始まらない。

クマの着ぐるみは忘れて映画に集中しよう。

が、しかーし

いかんせん音楽が、旅番組ばりに軽快で、のん気すぎるのだ。

サスペンスに気持ちを集中させようとしても、すぐに恵比寿ビールのCMのような音楽が流れて、強制的に“ほんわか”させられてしまう。その音楽が流れたら最後、この映画はもはや旅番組もしくは散歩番組の「チイ散歩」、今なら「ジュン散歩」、この映画なら「ケン散歩」になるのだ。

恵比寿ビールのCMで流れる音楽と言えば、もとはサスペンススリラーの名作『第三の男(1949)』の、「ハリー・ライムのテーマ」と呼ばれたテーマ曲だ。今作品が、名作のテーマ曲を意識したのかどうか知らんが、とにかくあまりにも映画の雰囲気をぶち壊していたので、もうコントだと割りきるしかなかったのである。

そして、ハードボイルド具合が健さん以上に激しい原田芳雄さん演じる矢村警部の、男汁たっぷりな“もみ上げ”と、歯の浮くような男くさいセリフと、「あー、そーですか、わかりました」という人のセリフにかぶせまくる投げやりなセリフ。

また、中野良子さん演じる、ちょっと思い込みが激しい猪突猛進型のお嬢様、遠波真由美の「すぐ脱ぐわ、馬は走らせるわ、泣くわ」で画面が忙しい。途中ドアップになる“おっぱい”は、絶対にボディダブルだと思うので中野良子さんご本人のものではないと思うが、いくらなんでもアップすぎやしないか。ドーンという感じだぞ、ドーン。

そして、なんと言っても
ずーっと聞こえている同じ鳥の鳴き声「ピヨピヨ」だ。

それが、大滝秀治さん演じる、困った娘に手を焼くやさしいおじいちゃんパパ遠波善紀が、杜丘にセスナの操縦方法をビックリするほど大雑把に教えている最中も鳴いている。

しかもついには、監督もセスナの操縦説明シーンが面倒になってきたのか、「ピヨピヨ」しか聞こえなくなる。

セスナ機に並んで座る名優、高倉健さんと大滝秀治さん。そして 「ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ、ピヨピヨ」

 

どんだけ高度なギャグだ。

 

果たして、このレビューで今作品が観たくなるか疑問だが、当時40代だった高倉健さんは、本当に男前だった。そんな、かっこいい健さんの映画で大爆笑したいなら、ぜひご賞味あれ。

 

ライター中山陽子でした。

 

君よ憤怒の河を渉れ(1976)

監督 佐藤純弥
出演者 高倉健/原田芳雄/池部良/中野良子

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