【オールド・リベンジ~やられたらやり返せ~】
時間をかけて観客に悪人を憎ませる「こいつらやっちまえ」映画 ※ネタバレあり
初老夫婦に贈られた「楽園の罠」――それは地獄への招待状だった
【あらすじ】
賃貸生活を抜け出し、夢だったマイホームを持てるとバーナードは大喜び。だが妻のヘレンは、不安を拭いきれなかった。
「知り合いもいない不便なフランスの片田舎で、初老のアメリカ人である私たちが本当にやっていけるのか……」
その不安は、想像を遥かに超えたかたちで的中する。
近所を徘徊するストリート・ギャングの集団が、彼らの敷地に侵入し、破壊行為を繰り返すようになったのだ。アメリカ人を極度に嫌う若者たちの嫌がらせは、日ごとにエスカレートしていく。
だがじつは、この一軒家をバーナードに遺したイギリス人には、ある「思惑」があった。
「チャールズの息子なら、きっと解決してくれるはずだ」
やがて、バーナードの忍耐が限界を超えたとき、足腰も弱く、頼りなかった初老の男が――リベンジの鬼へと変貌する。
胸クソ限界突破からの~初老夫婦「怒りの園芸リベンジ」発動💢
【レビュー】※ネタバレします!
● 「なんで調べなかった?」案件
物語の始め――
これでもかというほど態度の悪い弁護士が、ある日、人のよさそうな初老の夫婦にこう持ちかけます。
「お父ちゃんの友人が、あんたに遺した家がフランスにあるで~」
「ただし1年間はそこに住まないと、この話はなしやで~」
なんとも感じの悪い、追い込み型の不動産業者のような口ぶりです。「いますぐ仮契約しないと、人気物件なんで明日には無くなっちゃいますよ」的な。じっくり考える余地を与えない感じでした。
最初、妻のヘレンは乗り気ではありませんでしたが、夫のバーナードは最初からノリノリ。
バーナード「家賃生活から抜け出せるんだよぉ~?」
ヘレン「でも~~」
そんなやりとりの末、ふたりは移住を決断。
……が、迷ったわりには、しっかり調べていった気配がありません。「なんでもっとよく調べてから決めなかった?」とツッコミたくなるスタートです。
● 「どこまでやるんだ極悪クソガキ」編
この映画の原題は『Offensive(攻撃)』。そして邦題は『オールド・リベンジ~やられたらやり返せ~』。IMDb(インターネット・ムービー・データベース)では “ホラー” に分類されています。
……もう観る前から「年寄りだとナメていたら過激に逆襲された」という内容が透けて見えます。
ただし――逆襲される側として登場するのは、まだあどけなさの残る少年少女たち。「若いから善悪の判断もまだできないし……」「チャンスをあげて」なんて言い出す人もいるかもしれません。
そこで制作陣は、観客の「情状酌量の余地」を完全にふっ飛ばすべく、少年少女たちを完璧な極悪サイコパスに仕上げてきます。彼らがやることと言えば――
赤ちゃんを乗せた母親の車に、面白半分で陸橋からレンガを落とす(※おそらく母子ともに死亡😢)。
高齢者を驚かせて脳卒中を引き起こし、その様子を笑いながらスマホで撮影・放置⇒その結果、全身麻痺に(後に悪徳警官が金品目的で放火し、焼死させてしまう)。
バーナードの父親の友人の死も、彼らの犯行かもしれないと示唆されるセリフも登場。
マーティン夫妻の家を荒らし、盗み、壊し、暴行し、ヘレンを気絶させた上で――顔に放尿。
……もう、ここまでくると筆者も、そのあどけない彼らに殺意しか湧きませんでした。
気づけば「早くこいつらをやっちまえ!」という思いに支配されていた私。制作者側の罠にまんまとハマったわけです。あとはリベンジを心待ちにするだけ~~~♪
●「そこまでやるんですかご夫婦」編
前述のとおり、この映画は “ホラー” に分類されるだけあって、反撃シーンもなかなかエグい描写となっています。
愛する妻が殴られ、顔に放尿されたとき、バーナードの何かが「プツッ」と切れました。「ブチッ」かもしれません。
鬼の形相でリベンジを開始したバーナード。相手が子どもであろうと関係なし。スコップであんなことや、〇〇でこんなことや、△△でそんなことまで容赦なくやってのけます。命乞いされても一切躊躇なし。
(ちなみに最初は「許されないことだ」と戸惑っていたヘレンも、最終的には参戦し、夫に負けないくらいの残虐さでリベンジしていました😅)
そして、成敗された若者や悪徳警官はどこへ行ったのかというと――劇中で、ひとつ、またひとつと増えていく針葉樹の下に埋められてしまったのです。なぜ針葉樹かというと、成長が早く、根を張って死体に巻きつくから?(らしい)😱 つまり、見つかりにくい。
でもってラストシーン――
主人公(綺麗にガーデニングされた庭を見渡して)「やっと雑草がなくなった…」
妻(同じく庭を見渡しながら)「・・・(少し微笑んで、少し頷く)」
雑草=悪人たちという暗示ですね。
さらにそのあと、針葉樹を植えた場所へとカメラが切り替わり、どんどん引いていくことでその全貌が映し出されます。十数本……?
つまり、その針葉樹の数だけ、悪人が埋まっている、というわけです。恐るべしマーティン夫妻。
● バーナードの背景
もちろん、バーナードがそこまで強硬策に出たのは、不良たちが妻や無関係な人々を脅し、傷つけ、侮辱し、殺しても、警察がまったく助けてくれない(むしろ共犯)という状況があったから。
……なのですが、じつはバーナードには、こんな背景がありました。彼の父は戦地でナチスの残虐行為を目にし、ついには逆にナチスを大量に殺す存在になってしまったのです。
その姿は、スーパーヒーローというよりも、怒りに取り憑かれた残忍な殺し屋。戦友であるイギリス人(マーティン夫妻に家を遺した人物)も、さすがに引いてしまったようです。
それでも彼は、「この地にはびこる悪人を、チャールズの息子であるバーナードならなんとかしてくれる」と考えたのでしょう……(なんて大迷惑な)。
とはいえ、結果的にバーナードはやり遂げてしまった。針葉樹が増えるたび、街に平和が戻ったのだと、その表情が物語っていました。
● 花壇の謎
作中ではたびたび、幼いころのバーナードと、その父(ユダヤ人には守護神、ナチスにとっては殺戮者)が庭仕事をしている回想シーンが挿入されます。
その横で、幼いバーナードを神妙な面持ちでじっと見つめる父。その表情は、どこか朦朧としていて、何かに取り憑かれているようにも映ります。イラッとするほど何度も出てくるこの回想ですが……
最終的に、「ああ、これはきっと何かを暗示しているんだな」と思うようになりました。バーナードは針葉樹の下に悪人を埋めていきます。そして、神妙な顔で庭いじりをする父の姿。
つまり――
(ここからは想像ですが)バーナードの父も、戦地から戻ったあと、悪人を密かに成敗し、自宅の庭に埋めていたのかもしれません。その “処刑人” としての精神、イコライザー的な精神は、しっかりと息子に受け継がれていたようです。
恐るべし……!😱
(ライター中山陽子)
『オールド・リベンジ~やられたらやり返せ~』(2016)
監督:ジョン・フォード
出演者:ラッセル・フロイド , リサ・アイクホーン , フレッド・アデニス , ティモシー・モランド , アナイス・パメロ