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CINEMAバリQ

【寒い国から帰ったスパイ】
心が引きちぎられる切ないスパイ映画

寒い国から帰ったスパイ 映画あらすじ

ベルリンで連絡員を目の前で射殺された諜報員のアレックス・リーマスは、左遷されたのちにイギリス情報部から解雇されてしまう。それからというもの酒におぼれ、荒れた生活を送るリーマス。かろうじて図書館の仕事に就き、そこで出会ったナン・ペリーと愛し合うようになる。
だが悪い酒ぐせが抜けず、暴力沙汰を起こして刑務所へ。そんな彼が出所すると、謎の男が近づき「ある仕事」を依頼しようとする。

寒い国から帰ったスパイ 映画レビュー

この映画はジョン・ル・カレのスパイ小説を映画化した作品だ。同じく彼が書いた小説を映画化した『裏切りのサーカス(2011)』を観た人ならば、今作品でも登場するスマイリーという名に馴染みがあるだろう。

タイトルの“寒い国”という言葉の意味は、映画のはじめリーマスの上司によるセリフで観客に明かされる。大義のためなら冷酷な騙し合いや裏切り、殺しまでよしとされる凍りつくような寒い世界という意味だ。そしてタイトルそのものは、衝撃的なラストにおいて深い意味を与えている。

ジョン・ル・カレのスパイ小説は徹底したリアリズムと、スパイの哀愁、巧妙に練られた筋書きとストーリー展開が特徴だ。だからこそ、この映画も地味でリアルでハードボイルドで、そして少し切なくて、裏の裏をかく小気味よさを堪能できるのだろうと思っていた。もちろん、その予想は外れていなかったが、「切なさ」という部分では想像の範囲を超えていた。自分がスパイ映画で涙した記憶はあまりないが、この映画ではなんともいえない切なさが涙とともに込みあげてきた。

ジョン・ル・カレの名前は、『007ジェームズ・ボンド』シリーズを書いたイアン・フレミングの名前とよく並べられる。それもそのはず、両者ともイギリスの諜報機関MI6に所属していた過去があり、その経験をもとにスパイ小説を書いた有名人だ。

しかしながらご存じのとおり、『007ジェームズ・ボンド』シリーズは完全なる娯楽なので華やかなスパイが登場する。いいスーツを着て、いい女を口説き、最新のスパイツールをもちカッコいい車に乗り、銃をぶっ放して物語の最後には美女としっぽりだ。
その真逆が、ジョン・ル・カレによるリアルなスパイ小説なのだ。

個人的に、現実離れしたド派手な娯楽スパイ映画は大好きだ。そしてジョン・ル・カレの小説が原作の、高度な探り合いを味わうスパイ映画もたまらなく好みだ。それぞれの良さがあるので、どちらかに偏る気持ちはまったくないのだが、今作品が自分に与えたインパクトはどのスパイ映画よりも強かった。

物語の終盤リーマスは、恋人のナン・ペリーにことの真相と理不尽なスパイ人生を吐き捨てるように説明している。そんな彼がラストシーンで見せた表情には、様々な想いが複雑にあらわれていた。

だが、想像もつかない人生を送ったスパイだろうと、ごくごく平凡な人生を送った人間だろうと、あのような状況のときに感じるものはきっと同じなのだ。人の本能は、愛する人のいない寒い場所を選ばない。

 

ライター中山陽子でした。

 

寒い国から帰ったスパイ(1965)

監督 マーティン・リット
出演者 リチャード・バートン/クレア・ブルーム/オスカー・ウェルナー/ペーター・ヴァン・アイク

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