【汚れた英雄】
ジゴロな天才オートバイレーサーの物語
汚れた英雄 映画あらすじ
オートバイレーサーの北野晶夫は、生まれ持った美貌と肉体を武器に、多大な財力を持つ女性たちを虜にしていた。しかし、彼がジゴロのような生活をしているのはすべてがオートバイレースのため。プライベートライダーの北野晶夫にはスポンサーがいないので、自ら莫大な資金を調達する必要があるのだ。やがて、そんな野心にあふれた北野晶夫が、人生のすべてをかけた全日本ロードレース選手権の最終戦が菅生サーキットで華々しく幕を開ける。
汚れた英雄 映画レビュー
1982年当時、高校の文化祭でこの映画が無料上映されていた時のことだ。モニターの前には食い入るように映画を観る10代の男子生徒たち。ラストに流れるテロップを一緒に読みあげ、熱いため息をついていた。
今観ると木の実ナナさんがガンガン裸になっているので、よく文化祭で上映できたものだと思う。やんちゃな男子生徒たちが勝手に行ったのか、当時の反骨精神にあふれた学校の先生たちが「いいぞ俺も好きだ上映したれ」ということだったのかはわからないが……。とにかくこの映画で草刈正雄さんがギラギラと演じていた北野晶夫という男の生きざまに、当時の少年たちは憧れを抱いたようだ。
そりゃあ無理もない。背が高く引き締まった体の、彫の深い端正な顔立ちをした男が、オートバイレースの才能があって、女にモテて、リッチで洗練されていて、それでいてストイックで孤高なんだから。
有名なことだが、この映画のオートバイレースシーンのスタントをしていたのはオートバイレーサーの平忠彦さん。映画の撮影当時は国際A級500ccクラスにステップアップしたばかりの若手だったらしい。現役時代は国内ヤマハワークスでエースの地位を確立するなど活躍したのち、引退してからはオートバイショップを運営したり、レーシングチームの監督をしたりなどで日本のオートバイシーンに多大なる貢献をしている。
この方の当時の写真を見るとビックリ。草刈正雄さんにも似た端正な顔立ちで背が高く、しかもやたらセクシーなのだ。するとどうやらライダーとしての才能に加え、そのビジュアルがあったからこそこの映画のスタントに抜擢されたらしい。とはいえ見た目も才能もソックリでありながら、当時の平さんは下積み生活だったので、北野晶夫のライフスタイルとはかけ離れたものだったらしいが。
そんな平さんのほかにも、この映画には一流レーサーが何人も参加していたとのこと。彼らが走らせる時速200キロを超えるマシーンを、ヘリコプターなども使い何台ものカメラで追い撮影したらしい。それゆえにオートバイレースのシーンは、「このシーンを観るだけでも価値がある」と言いきれるほど見ごたえがある。
しかし、この映画で初めてメガホンをとった角川春樹氏がこだわり抜いた部分は、オートバイレースのシーンだけではない。なんと美術と衣装に1億5千万円もかけたという話だ。
主人公の衣装はジョルジオ・アルマーニとジャンニ・ヴェルサーチという、バブル時代を象徴する2大デザイナー。また、パトロン女性の中のひとりは衣装がすべてイヴ・サンローランのオートクチュール。この時点でもはや金額が底知れない。
そして、北野晶夫が家の中で泳いだり、シャワーを浴びたりでやたら“尻を見せるたがる”超モダンインテリアな部屋にも2千万ほどかけたのこと。
家にプールがあるのもすごいが……、
尻を見せプカプカ浮いていたプールから出て、濡れたまま階段をのぼると見えてくる部屋に、洗練されたベットルームとものすごいオーディオルーム、シャワー室にまったく仕切りがなく、結局は尻を見せてシャワーを浴びるのがすごい。つまり尻がすごいということになるのだろうか。
何を書いているのかわからなくなってきたが、とにかく男のロマンにあふれたテーマ曲をバックに、色男がモダンな部屋で引き締まったボディをあらわにしてレモンを搾ったペリエを飲んだり、自動開閉のブラインドらしきものを開けて日を浴びたり、筋トレしたりするのだが、いちいち「お金がありそうで」「野心タップリでギラギラで」「カッコよくて」「イケメン」なのだ。カッコいいなあと思いつつも、ベタで完璧すぎてつい吹き出す。
特に筋トレシーンはなぜか真正面からのアングルなので、カメラ目線な草刈さんと目が合いっぱなし。汗が「ローションの塗りたくり」にも見えてギンギンなので、無意味にどう対処してよいものか悩む。
突っ込みポイントはそれだけじゃない。
あふれんばかりの財力をもつ石油王の娘クリスティーン・アダムス(レベッカ・ホールデン)が、キスしようとする北野晶夫に「私がノーと言ったらノーよ」と言い、本当はキスしてほしいくせに拒むのだが……、その際に“ちっちゃい銃”を出し北野に向けるのだ。外国人とはいえ、日本で普通に銃を出してはいかんのでは。しかも抗争とかじゃなくて「ダメよ、ダメダメ」な色恋の最中だぞ。
また、そんなつれないクリスティーンに対し、北野晶夫が手で銃をまねてバーンと打つふりをする。「狙った女のハートを打つ」というベタな所業を見せられては、やはり突っ込まずにはいられない。
そして、パトロンとして最強なクリスティーンをなんとしても落としたい北野晶夫は、尋常じゃない本数のバラを彼女に贈る。しかし、食事をしていたクリスティーンのもとにバラが続々と運び込まれるもんだから、クリスティーンの顔しか見えなくなるほどバラだらけに。したがって本来はロマンティックなシーンのはずなのだが、その時点でもはやお葬式にしか見えないのだ。しかも、バラの真ん中でクリスティーンが「うふふ」と嬉しそうに笑っているので、最終的にはサスペンス状態に。
そうかと思えば、木の実ナナさん演じるリッチな世界的デザイナーが所有している(と思われる)船でのクルージングだ。船の中とは思えない豪勢な部屋で情事にふけったあと、甲板にあがれば『太陽がいっぱい(1960)』な世界が繰り広げられている。甲板でピュアモルトだかバーボンだかを口にして世捨て人みたいに遠くを見つめるボーダー柄着た船長は、そうそう居ない。
こんな風にどのシーンを切り取っても「夢のような世界」だけに、あまりにも非現実的すぎて今観ると突っ込まずにはいられない映画なのだが、どうにもこうにも魅力にあふれている。
この映画のローズマリー・バトラーによる主題化が、若かりしリチャード・ギアがセクシーなジゴロを演じた『アメリカン・ジゴロ(1980)』の主題歌の「コール・ミー(ブロンディ)」に似すぎていても、カッコいいからこの際ええじゃないか。
なお、北野晶夫のメカニックを担当する夫婦を演じているのは、まだ若かりし浅野温子さんと奥田瑛二さん。北野晶夫の憧れであり、最大のライバルでもあるヤマハのワークスライダー大木圭史は勝野洋さんが演じている。浅野温子さんは当時『スローなブギにしてくれ(1981)』での小悪魔的な演技が大注目されたばかり。何かと見どころが満載すぎて、きっと時を忘れて鑑賞してしまうはず。ぜひご賞味あれ。
ライター中山陽子でした。
汚れた英雄(1982)
監督 角川春樹
出演者 草刈正雄/レベッカ・ホールデン/木の実ナナ/浅野温子
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