【はじまりへの旅】
世間知らずだけど事実上超エリートな一家の物語
はじまりへの旅 映画あらすじ
森奥深くに住むベン・キャッシュと6人の子供たちの暮らしぶりは、一般的な家族が送るような生活とは程遠いものだった。火を起こし、狩りを行い、それをさばいて調理する。軍隊並みに厳しくからだを鍛え、命の危険さえあるような岩山でロッククライミングをする。また、たくさんの本を読んで知識を蓄え、あらゆる言語も習得していた。そのため、皆アスリート並みの体力と高い知能、サバイバル能力を備え、論述にまで長けている。しかし、ただひとつ致命的に欠如している部分があった。それは、一般的な世間の常識である。そんな彼らが、ベン・キャッシュの妻であり、子供たちの母親であるレスリーの死をきっかけに長い道のりの旅に出る。
はじまりへの旅 映画レビュー
クスッと笑えて切なくて、やさしさがあって少し複雑……、そんな映画だった。もしも子供たちの爺ちゃん婆ちゃんがあんなにリッチじゃなかったら、もっと切実な状況になっていたかも。
ベン・キャッシュは資本主義を忌み嫌い、子供たちと未接触部族のような暮らしを送っている。しかし、現代文明の人間とは細いつながりをもっているし、その何かしらを生活のなかで活用することもある。それに、森の奥深くで生活しながら、文明社会のなかで生まれた知識と教養を完璧に身につけている。
ベンが娘に、「興味深い」といった曖昧な表現で書評を述べることを許さなかったのも印象的だった。つまり、文明社会で意見の相違を解消するために用いられる議論能力も、子供たちは本や父親から吸収し仕込まれて、完璧に身につけているのだ。
そう考えると、なんだか矛盾しているような気にもなるが、別にベンは未接触部族のような暮らしを目指しているわけではない。あくまでも、「無駄」のなかに人々が溺れて生活している資本主義を嫌っているだけなのだ。人それぞれ生き方は自由なので、それをどうこう言うのは余計なお世話かもしれない。
しかし、大人のベンは自分の意志でその生き方を選んだが、子供たちは違う。ある時点になったら、自分がどう生きていくか選ぶ権利があるのだ。したがって、そういった部分がこの物語の中心となる。
これが『キックアス(2010)』のように、はじめから常軌を逸した世界観ならば笑って楽しめる。しかし、今作品の場合は多少リアルだったり、シリアスだったりするので、笑い飛ばすという感じでもない。また、父親・夫としてのベンに対し、否定的な感情をもつ人も少なくはないだろう。
ただ、映画の終盤で、ベンがこのような生活を送ろうとした本当の理由が明かされると、印象が少し変わってくる。そもそも彼も大きな苦しみを抱えていたのだ。そして、たまたま完璧主義者だったというわけだ。
とはいえ、途中、父親の方針に不満をもらした息子に対し、「不満があるなら皆の前で何がどう不満なのかはっきりと説明しなさい。それを取り入れるべきか皆で意見を出し合い、最終的には多数決で決めよう」というようなことを言っていたシーンがある。見ているぶんには面白いが、いちいち面倒そうなので自分は遠慮したい。いや、それ以前に、狩りも命がけのロッククライミングも無理だから絶対に遠慮したい。
あと、どうでもいいことだが、
よく裸になるヴィゴ・モーテンセンは、この映画でもやはり全裸になっている。
が、ボカシが入るので『イースタン・プロミス(2007)』のようにフル○○ではない。
ライター中山陽子でした。
はじまりへの旅(2016)
監督 マット・ロス
出演者 ヴィゴ・モーテンセン/フランク・ランジェラ/キャスリン・ハーン/スティーヴ・ザーン
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