【ザシェフ 悪魔のレシピ】
強烈にグロテスクな悲しき殺人鬼のリベンジホラー
ザシェフ 悪魔のレシピ 映画あらすじ
イギリス・ロンドン郊外の街。ケバブ店を営む父親が病床に伏したため、サラールは大学の論文を書きながら店を切り盛りするようになる。サラールには、論文を仕上げれば国連に就職できるという明るい未来が待っていた。だが、そんな彼をあざ笑うかのように、ロンドンの街は泥酔しドラッグやセックスに溺れた人々が、連日のように暴挙をおかしている。そしてとうとうその被害は、息子を心配し病院を抜け出してきたサラールの父にまで及ぶ。しかし、移民であるサラールに警察の対応は冷たい。店に来る客も相変らず傍若無人な振る舞いばかり。やがて行き場のない怒りは、サラールを異常な行動へと駆り立てていく。
ザシェフ 悪魔のレシピ 映画レビュー
悲しき連続殺人鬼の物語。へんな話、つらい思いを強いられていた殺人鬼には同情したが、ひどい振る舞いを見せていた被害者たちには同情する気持ちが生まれなかった。ただ、あまりにもグロテスクすぎるため、「そこまでやるか」と少しばかり主人公への同情心が揺らぐ。どんなにひどい仕打ちを受けたとしても、普通なら一瞬でも冷静になるときがあるだろうに。
また、鑑賞後は街でどのケバブを見ても“その肉”に見えて、すっかり食欲が失せてしまった。ちょっぴり……、いや、かなりの営業妨害かも。
実は、この映画をストレートな復讐劇だと思い鑑賞したのだが少し違っていた。
差別によって虐げられ、浮かれた連中に親を奪われ、心も将来も生活もボロボロにされた主人公のサラール。彼はイギリスという国において、常に著しく不利益な境遇に立たされる社会的弱者だ。真面目に正直に生きることが無意味に感じるような国で、親孝行な青年が発した怒りのエネルギーは、店の地下室に閉じ込められて大爆発を起こす。
もちろんサラール爆弾の製造も点火も、人として最悪な事業家や無責任な警察、身勝手でアホな客たちが行ったようなもの。とはいえ、真面目で穏やかでやさしかったはずのサラールが、異常とも思える行動をはじめたときは唐突に感じられた。
DVDパッケージが血だらけの包丁を手にしたシェフってことなので、ある程度のグロテスクさは覚悟していたが、その範疇をかる~く超えてしまうので注意が必要だ。
グロテスクなシーンのみならず、おぞましくて、汚らしくて嫌悪感にあふれていて、とにかく「胸くそ悪くて気持ち悪い」という感情ばかりがわきあがる。
だが、この映画のなかで唯一、ホテルの女支配人サラの凛とした雰囲気と、よどみのない瞳、明るい笑顔だけが心のオアシスだった。もっと早くにサラールが彼女と出会っていたら、彼は殺人鬼なんかにならなかったかもしれない。そして心情的には、人種差別大国ともいわれるイギリスの現状を浮き彫りにするだけではなく、もっとサラールが救われていく展開にして欲しかった。
そもそもサラールは快楽殺人を犯したわけではない。「すまない」という言葉を、心の奥底から絞り出すように伝えた男への対応でそれがわかる。被害者たちはたった一言、謝罪すればいいだけのことだったのだ。
なんにしても、つい最近鑑賞した『裸足の季節(2015)』を観てトルコにドン引きして、今作品でイギリスにドン引きした。そして、ケバブ好きなら絶対にこの映画は観ないほうがいい。
ライター中山陽子でした。
ザシェフ 悪魔のレシピ(2017)
監督 ダン・プリングル
出演者 ジアド・アバザ/スコット・ウィリアムズ/ダーレン・モーフィット/リース・ノイ
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