【シンクロナイズドモンスター】
「いま何見せられたんかな?」なアン・ハサウェイの怪獣 ヒューマン ヒーロー映画? ※ネタバレあり
怪獣とシンクロする人間の予測不能な物語
【あらすじ】
そうしたなか、韓国ソウルに謎の怪獣が現れる。
その挙動が自分の動作とシンクロしていることに気がついたグロリア。おもしろがってオスカーや彼の友人らにそれを披露。それで調子に乗り、多くの人の命を奪ってしまったことを知る。だがモンスターは、グロリアとシンクロしている怪獣だけではなかった。
怪獣より “人間” がいちばん厄介だったというお話です
【レビュー】※ネタバレします!
● クルクルと変わる不思議ムービー
映画のパッケージから、『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結』(2021)のヘナチョコ版かな? と思って鑑賞しましたが――。
ポップコーン片手に(の気分で)観ていたら―― 途中から「故郷で自分探し&自分再生」系のドラマになり、少しだけホラー化して、
最終的にはヒーロー映画的なクライマックス。
のち―― シニカルなヒューマンドラマで締めくくられました。
観終わったあと、いま「何を見せられたんだ」という気持ちになりましたが、不思議と最後まで飽きないことも確かです(筆者の場合は、ですが)。
でも、「わけわからんがおもしろい」がキャッチフレーズのインド映画とはちと違う(古い?)。主役を演じたアン・ハサウェイさんいわく、本作の脚本を映画『マルコヴィッチの穴』(1999)と比較しながら読み込んでいったとかなんとか。
それを知り「ああ、なるほど~」――と思えたような。そうでもないような。
このあと各パートについて語ります。
● 「故郷で自分探し&自分再生」系パート
なかなか悪くなかったこのパート。アルコールに依存しているくせに、バーで働き出し、仕事あとに結局はグダグダと友人らと朝まで飲み明かすグロリア。ほぼ、まともにベッドで眠れません。
でも、このときグロリアは、オスカーとその友人のジョエルやガースに少し癒されているようにも見えました。
この一連のシーンがよく見えたのは、アン・ハサウェイさんの演技が絶妙だったせいかもしれません。
しかし、その穏やかな風景のなかには、本当のモンスターが隠れていました。
● 「途中から少しだけホラー化」したパート
この映画の最大の肝は、主役のグロリアと、韓国ソウルに出現した巨大怪獣の挙動がシンクロしていること。加えて言えば、オスカーの挙動もソウルに現れた巨大ロボットとシンクロしていることです。
したがって、邦題の『シンクロナイズドモンスター』のモンスターは、それらを指しているのですが――本当のモンスターはグロリアのすぐそばにいました。
じつは、幼馴染のオスカーこそが、真のモンスターだったのです。
彼はグロリアと再会してからずっと「いい人」でしたが、グロリアがこっそりオスカーの友人(と言うかほぼ舎弟)のジョエルとアレしていたことを境に、「いい人」の着ぐるみをスッポリと脱ぎました。結局、いい人間の部分は “着ぐるみでしかなかった” ということになります。
彼は、もともと強かった劣等感をさらに強め、劣等感モンスターとなりグロリアに執着。ソウルの人々を人質に、グロリアを、そして友人らの支配を始めたのです。
その暴挙を目の当たりにしたグロリアから、「あなたは自分が嫌いなのね? あなたは、自分のちっぽけな世界が嫌いで仕方がないのよ」的な、きつ~~~~~い言葉を浴びせられたオスカーは、ついに暴れ狂うまでのカウントダウンを開始。
手のつけられない猛獣のようになり、やがて表情は映画『シャイニング』(1980)のときのジャック・ニコルソンさんのようになって、グロリアに襲いかかりました。
が――、そのグロリアがつえーのなんの。家にあるいろんなもんを武器に応戦します。
そうは言ってもやはり腕力では敵いません。オスカーにがっつり殴られたグロリアは「ソウルとシンクロできる公園の砂場」で撃沈。グロリアの目の前で、オスカーはソウルに現れた巨大ロボットとシンクロさせた自分の “踏みつける” 動作で、ソウルの街の大破壊を始めました……。
● 「最終的にはヒーロー映画的なクライマックス」パート
グロリアは、元カレ(演じるのはダン・スティーヴンスさん♡)と元サヤに戻る決意をしたのち、あることに気がつきます。それは、自分がソウルに行けば、アメリカのニューハンプシャー州にいるオスカーの暴挙を止められるかもしれない、ということでした。
その可能性を胸にグロリアは渡韓。(どこにそんなチケット代が……)
結果、グロリアの推測は正しかったことがわかります。
つまり、
- ニューハンプシャー州にふたりが居た場合<ソウルに巨大モンスター現る
- ニューハンプシャー州に巨大モンスター現る>ソウルにふたりが居た場合
したがって、グロリアだけが渡韓した場合は――
- ソウルで人間のグロリアが、オスカーとシンクロしている巨大モンスターと対峙
- ニューハンプシャー州ではオスカーが、グロリアとシンクロしている巨大モンスターと対峙
ただし、グロリアだけがその状況を把握しているので勝負は決まったようなもの。ニューハンプシャー州ののどかな公園で、はるか遠くソウルでまた大惨事を起こしてやろうと考えていた劣等感モンスターのオスカーは、目の前にどデカい怪獣が現れ愕然とします。
ソウルから「このへんにオスカーおるな」と手探りでオスカーをつかんで持ち上げたグロリア(そんなアホな)。手のなかにいるのがオスカーだとわかっていても……、もはや彼は大虐殺の犯人。幼いころに彼のサイコパスな一面も目にしていたグロリアは、そのまま彼を遠~~~くにぶん投げてしまいました。
その様子は描かれていませんが、人間があれだけの勢いで巨大怪獣にぶん投げられたら、どうなるかは容易に想像できます。
● でも結局最後には……
なんかようわからんヒーロー活動で、劣等感モンスター(巨大ロボット)からソウルの人々を救ったグロリア。
疲れ切った様子でソウルのバーに入ります。
優しく洗練された韓国人店主の女性に話しかけられ、思わず「すごい話を教えようか?」と語り始めますが、バーだけに「何か飲みます?」と言われ答えようとした次の瞬間。
「またこの循環かよ!(わしアルコール依存症なのに)」という表情をしてエンドロールでした。
あーーーーんな、ハチャメチャなストーリーを繰り広げといてシニカルな締めくくりかーーーーい。
いろんな意味で、記憶に残った作品です。
(ライターgatto)
『シンクロナイズドモンスター』(2016)
監督:ナチョ・ビガロンド
出演者:アン・ハサウェイ , ジェイソン・サダイキス , ダン・スティーヴンス , オースティン・ストウェル , ティム・ブレイク・ネルソン


