【蜘蛛女】
レナ・オリンが演じた悪女がもはや怪物な映画
蜘蛛女 映画あらすじ
ジャックは法を守る立場でありながら、マフィアと密通し不正な報酬を得ていた。美しい妻とくらす一方で、若く魅力的な愛人を囲えるのはその報酬のおかげ。私利私欲にまみれた生活を満喫するジャックだったが、ある日、ロシア出身の女殺し屋モナ・デマルコフの護送命令がくだり状況が一変する。モナは、倫理に反し己の欲望を満たしてきたジャックが太刀打ちできないほど狡猾な女だった。やがて、ジャックの人生は音を立てて崩れていく。
蜘蛛女 映画レビュー
公開当時この映画を観たとき、枯れはてた男の姿が脳裏に焼きついて、どうしても頭から離れなかった。
はじめはジャックに対する嫌悪感が心を覆うばかり。私利私欲に目がくらみ、警官のくせに卑劣極まりない所行で法を犯すわ、妻は裏切るわ。しかし、最終的にはあまりにも哀れすぎて「自業自得」と言葉をぶつける気にもならないほど。むしろジャックの悪行はどこかにすっ飛び、単純に「ジャック=かわいそうな被害者」「モナ=極悪人の加害者」という構図に落ち着いてしまう。
それほど、レナ・オリンが演じた女殺し屋モナ・デマルコフは強烈だった。
男女1000人が束になって彼女1人に襲いかかろうと、誰も彼女をやっつけることができないのではないだろうか。だが、モナの強さは肉体的なものでも、語気の強さでもない。「悪」の強さなのだ。
あれほど憎々しい女を演じきることができる女優さんは、レナ・オリン以外なかなかいない。ちなみに、プライベートで彼女は『ギルバート・グレイプ(1993)』『サイダーハウス・ルール(1999)』などで有名なラッセ・ハルストレム監督と1994年に結婚している。あんなにやさしい映画をつくる監督と結婚したのだから、実際は演じたモナとは真逆のやさしい女性なのだろう。
この映画の公開当時は筆者もまだ若かったため、なぜこうも易々と、男はモナの策略にはまってしまうのだろうと不思議だった。つまり……、男がはまるほどの魅力を感じなかったからである。彼女には、水をはじくような“しなやかさ”、もしくは、しっとりとした“艶やかさ”がなく、ただゴツゴツと押し当てるような“黒い色気”しかないように感じた。
しかし、いまはそれが(なんとなく)わかるような気がする。おかしな言い方だけど、犬笛の音には犬しか反応しないように、モナという極悪女が放つフェロモンには、ある種の男たちが反応してしまうのだ。つまり、卑劣・悪辣・ 下衆な部分をもつ男たちのこと。悪女は、それを見透かすのがとても上手で、そこに付け入ることがすこぶる上手いのだ。
ちなみに、ジャックはどんな役柄もこなすゲイリー・オールドマン、妻ナタリーはドラマ『LAW & ORDER:クリミナル・インテント』でキャロリン・バレック刑事としても活躍したアナベラ・シオラ、愛人シェリーは『フロム・ダスク・ティル・ドーン(1996)』のジュリエット・ルイスが演じている。
目も当てられないほど落ちぶれた男と同じく、愛する人を喜ばそうとプライベートダンスを披露した、やはり哀れな若い愛人シェリーの姿が、なんとも痛々しく記憶に残る。
ライター中山陽子でした。
蜘蛛女(1993)
監督 ピーター・メダック
出演者 ゲイリー・オールドマン/レナ・オリン/アナベラ・シオラ/ジュリエット・ルイス
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