【クリミナル 2人の記憶を持つ男】
スパイアクションと脳科学を楽しむ映画
クリミナル 2人の記憶を持つ男 映画あらすじ
CIAのビル・ポープは、アメリカ軍が保有する武器の遠隔操作を可能にしたハッカー、ダッチマンの確保に成功する。しかし、任務完了の目前でビルはテロリスト集団に捕らえられ、拷問のすえ殺されてしまう。ハッカーの居場所を唯一知るビルを失ったCIA は、彼の記憶を生存している人間に移植するしかないと判断。開発者であるフランクス医師にそれを一任する。やがて移植先として選ばれたのは、野蛮で凶悪な死刑囚ジェリコ・スチュワートの脳だった……。
クリミナル 2人の記憶を持つ男 映画レビュー
スパイアクションのファンのみならず、脳科学好きにはたまらない映画である。
しかし、脳の記憶(体験・学習)を他者に移すことや、ライアン・レイノルズが出演しているあたりは、どうしても『セルフレス/覚醒した記憶(2015)』と重なってしまう。
主役がライアン・レイノルズではなくケヴィン・コスナーであることや、活用するのが死人の体ではなく脳であることや、目的が「生」そのものではなく「テロ行為の阻止」であるといった違いはあるけれど、やはり何となく似ている印象は否めない。
だが、脳科学が絡むので非常に興味深く、とても面白い映画だった。将来的には記憶の移植も不可能ではないという、脳科学者で富山大学大学院教授の井ノ口馨氏の言葉を聞けばなおさらだ。現段階ではマウスによるものだが、特定の記憶だけを消去する実験は既に成功しているらしい。また、新しい記憶を人工的につくるのも可能だという。そういった意味では『トータル・リコール(1990)』はもう、小説や映画だけの世界ではないのだ。
つまり、まだ時間はかかるが、将来的にはこの映画のような記憶の移植も可能だということ。たとえ理論上でも、脳科学者の方が説明しているのだから、それは間違いないだろう。そうなれば、もう「死人に口なし」という“ことわざ”を使えなくなりそうだ。罪を着せられたり、罪を隠したりして死んでしまったとしても、記憶を取りだし全てを明らかにされてしまうのだから。
また、死刑囚のジェリコ・スチュワートという存在そのものも興味深い。途中フランクス医師の「ジュリコは前頭葉を損傷している」というセリフがある。脳の前頭葉は人間がもっとも発達している部分で、「記憶・学習・理性」に関わる場所だ。人間以外で発達しているのは同じ霊長類のサルのみ。つまり、この部分が働かないということは、その他の動物と同じ脳ということ。そして、人間らしさが欠如しているということだ。
「怒り・喜び・悲しみ・不安・恐怖」といった原始的な感情を抑制しているのが前頭葉にある前頭前野なので、その部分が働かないジェリコが、野蛮な行動にでるのも納得がいく。それゆえにジェリコの「以前はうまくアタマが働かなかったから、ひどい行いを……。でも今は善悪がわかる……」というセリフを聞いたときは、少し切ない感じがした。
単純に考えても、前頭葉が損傷しているジェリコの脳に、頭脳明晰なエージェントだけに、普通の人よりも前頭葉が発達しているビルの脳が移植されたら、その人格はほぼビルになるはず。なぜならば、人格は経験と学習、いわゆる記憶によってつくられるからだ。
妻と子をこよなく愛するビルの記憶が頭に入り込んだ死刑囚のジェリコは混乱するが、やがてその新たな記憶の価値を知る……。
このように、脳科学的にはとても面白い映画だったが、残念ポイントもある。前頭葉の働きが欠如した野獣を演じるには、ケヴィン・コスナーは男前すぎるのだ。
それに、CIA のクウェイカー・ウェルズのキャラクターがひどい。ただギャンギャン騒ぐだけで威厳も無いし役にも立たない。よりによって、そんなキャラクターを、いつもなら少し奇矯で不適な雰囲気で、作品に刺激や奥行きを与えてくれるゲイリー・オールドマンに演じさせるとは。トミー・リー・ジョーンズが演じた温厚で思慮深い医師との対比かもしれないが、納得いかない。
なお、イスラエル出身で兵役経験もあるガル・ガドットのアクションがなかったことは残念だが、魅力的な妻という役柄も悪くなかった。でも、「ビルのカミさん知ってるか? マジで超キレイでしかも足が尋常じゃなくなげーの!」とCIA 内で大騒ぎになるレベルだよね。
ライター中山陽子でした。
クリミナル 2人の記憶を持つ男(2016)
監督 アリエル・ヴロメン
出演者 ケヴィン・コスナー/ゲイリー・オールドマン/トミー・リー・ジョーンズ/アリス・イヴ
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