【イギリスから来た男】
スティーブン・ソダーバーグ監督60年代へのオマージュ
イギリスから来た男 映画あらすじ
アメリカのロサンゼルス空港に、初老の男が男がひとり降り立つ。人を見据えるような眼差しを持つ男の名はウィルソン。9年の刑期を終えて出所したばかりだ。イギリスからやって来た彼の目的はただひとつ、娘の死の真相を知ること。父親の生き方を嫌った娘のジェニーが、飲酒やドラッグで自動車事故を起こすとは到底信じられなかったからだ。やがて、ジェニーの友人エドゥアルドやエレインに会い当時の状況を探っていくうち、娘が事故死ではないと確信。復習に燃える獣と化した男は、娘が死ぬまえ一緒に暮らしていた音楽プロデューサー、ヴァレンタインに近づく。
イギリスから来た男 映画レビュー
誰かの質問に……、または60年代の音楽に旧懐を覚える2人の男。そこには輝ける日々と、愛すべき“浅はかさ”があった。その瞬間は、もう2度と戻ってこない。いま彼らの瞳には、はかなげな炎が静かに揺れながら灯っている。しかし、その奥にある命を重ねた強い炎は、ときに周囲を焼き尽くすほど激しい火柱をあげる。
この映画は、60年代へのオマージュが随所に見られる作品だ。そして、その時代に輝いた2人の男性に敬意を捧げた作品でもある。つまり、主役のウィルソンを演じたテレンス・スタンプと、テリー・ヴァレンタインを演じた ピーター・フォンダを味わう映画なのだ。
もちろんソダーバーグ監督らしい独特な表現も見どころだ。それは過去と未来を行き来したり、登場人物のセリフと映像を故意にずらしたり、単純なストーリーをわざと難解にしたりする部分のこと。
とにかく、
THE WHOの「The Seeker」をバックミュージックに、只者ではないジイサマ(テレンス・スタンプ)が登場したらノックアウトされること間違いなし。テレンス・スタンプの不敵で淡々とした演技は、多くの出演作品で見られるのではないだろうか。筆者もそのひとりだが、その部分に魅力を感じている人も多いだろう。
この映画では、そのテレンス・スタンプが有無をいわさずかっこいい。
当時はまだ60歳ぐらいだが、劇中でもチンピラに「ジイサン」と呼ばれていたように初老の歳である。それゆえに本来なら、娘の死の真相を探るのはいいけど大丈夫? と心配になるような状況だ。
しかし、怪しげな会社に単身で平然と乗り込んだり、他人のパーティーに乗り込み用心棒を投げ飛ばしたり、そんなことをしといて平然と街でくつろいでいたりと、やりたい放題。だが、「このジイサンなら絶対に大丈夫」とターミネーターばりの安心感があるのだ。
人は極端に強いものや弱いものに惹かれる。もちろんテレンス・スタンプは前者。腕力や頭脳といった「要素」を超越した強さだ。おまけに哀愁を帯びた眼をしているからたまらない。「セクシー」という表現とはまた違う、なにか危険な匂いが魅力として備わったひとなのである。
しかし、劇中で何度も映し出されるが、彼が実際に若いときの映像を見ると、昔はどちらかというと中世的な美少年。
それに、この映画で演じたウィルソンも、ただ不敵で寡黙な前科者というわけではなく、比較的おしゃべりな一面がある。娘にとって理解者だったイレイン(レスリー・アン・ウォーレン)と、エドゥアルド(ルイス・ガスマン)と絆を育むこともできる人物だ。この映画では、茶目っ気も気さくさもある前科者を、自然に演じるテレンス・スタンプを見ることができる。
なお、どんな映画でも「絶対に信頼できる裏表のない“いい奴”」といった役柄が多いルイス・ガスマンは、今回も猛烈にいい奴だった。彼が演じたエドゥアルドと、レスリー・アン・ウォーレンが演じたイレインと、ウィルソンの関係性は、とても心地よいものだった。
そして、どんなに若い子と付き合っている音楽プロデューサー役でも、車に乗っていても、途端に『イージー・ライダー(1969 )』の世界観になるピーター・フォンダ。映画のなかでは60年代を懐かしみ、「当時は良かった」と語っている。影響力の強い作品にイメージを固定されるのを嫌う役者さんもいるが、ピーター・フォンダは違うのかもしれない。
ちなみに原題は「THE LIMEY」。ビタミンC不足で発症する壊血病予防のため、イギリスの水兵がライム果汁を飲まされていたことから発展し、イギリス人を揶揄する言葉として定着したらしい。ちなみに翻訳機にかけたら本当に「英国水兵」と出てきた。
ライター中山陽子でした。
イギリスから来た男(1999)
監督 スティーブン・ソダーバーグ
出演者 テレンス・スタンプ/ピーター・フォンダ/レスリー・アン・ウォーレン/ルイス・ガスマン
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