【イン・ザ・カット】
後味悪いがマーク・ラファロだけは魅力的な映画
イン・ザ・カット 映画あらすじ
フラニーはニューヨークの大学講師。ごく普通の女性だが、人間関係をわずらい他人を寄せつけない生活をしている。そんな彼女が暮らしている場所のすぐ近くで猟奇殺人事件が発生。彼女のもとに、不思議な魅力を備えた刑事マロイがやってくる。そのあとフラニーは何者かに襲われ、マロイとは男女の距離を縮めることとなる。だが、さらに身のまわりで恐ろしいことが起こり、彼女はどんどん疑心暗鬼になっていく。
イン・ザ・カット 映画レビュー
スザンナ・ムーアの小説を、スザンナ・ムーア自身と『ピアノ・レッスン(1993)』のジェーン・カンピオンが脚色した映画。当時は「あのメグ・ライアンが大胆なヌードを披露」と話題になったが、評価は散々だった。真偽は定かでないけれど、当初はニコール・キッドマンが主役のフラニーを演じるはずだったという。ちなみに、彼女は製作に名を連ねている。
ジェーン・カンピオンは『ピアノ・レッスン(1993)』で、女性監督として初めてカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞し、そのほかにも数多く評価を受けた人。映画界は当時、今よりさらに性差別が激しかったはず。だからこそ、そんな彼女がつくる「女性の性」に深く斬り込んだ問題作は大いに注目を浴びたのだ。
また、当時、メグ・ライアンは崖っぷちにいた。『プルーフ・オブ・ライフ(2000)』以降、不倫騒動で人気が急降下し、ラブ・コメの女王とまでいわれたその輝きを失いそうになっていた。その彼女がある意味「裸一貫やったるで!」と根性を見せてくれたのだ。しかも、先述した女性陣以外に、この映画には卓越した演技力をもつジェニファー・ジェイソン・リーも出演している。
しかし! 蓋をあけてみたら、この映画で一番魅力を発揮したのは女性ではなく、あのマーク・ラファロだったのだ。
実は当時この映画を観たとき、マロイ役のマーク・ラファロを見て「誰だ? この、ちょっとフレディ・マーキュリーを小さくしたようなヒゲおやじは」とひどいことを思っていた。映画が始まって、今ひとつ精彩を欠いているメグ・ライアンに少しガックリしていたところ、期待度が高かったジェニファー・ジェイソン・リーの役どころも演技力を発揮できるようなものではなく、どんどん観る気が失せていった。なおさら、「もうお代わり結構」といいたくなるようなベッドシーンを、見たことがないヒゲおやじが披露するのだ。
もう観るのやめようかと思いながらダラダラ鑑賞し、観終わったあと「何だったんだ、この映画」と肩を落としたのだが……、
なんだろう、この後引き感?
と不思議な現象が起きた。そこで後を引いているものを探ってみたら、なんとヒゲおやじマーク・ラファロだったのだ。つまり、何を隠そうこの映画を観て、スルメイカのように後を引くマーク・ラファロのファンになったのである。本当に申し訳ないことに、映画自体はまったく惹かれなかったが、マーク・ラファロだけは驚くほど魅力的だった。
ちなみに、筆者が知らなかっただけで、彼は2000年の映画『ユー・キャン・カウント・オン・ミー』で演技を高く評価されていた。そのあとM・ナイト・シャマラン監督、メル・ギブソン主演の『サイン(2002)』でメリル・ヘス役をオファーされたが、残念なことに良性の腫瘍が見つかり、手術のため降板したのだ。ちなみに、その役はホアキン・フェニックスが演じている。その出来事で、マーク・ラファロはひどく挫折感を味わったらしい。そもそも『ユー・キャン・カウント・オン・ミー(2000)』にたどり着くまでが、彼にとっては下積み生活だったからだ。
つまり、この映画は手術後はじめての、再起をかけた作品だったのだ。
とりあえず、日本の片隅で細々生きるファンは1人(筆者のこと)獲得したが、作品自体は評価が低かったので彼もつらかっただろう。それに、いつかのインタビューでは「あのベッドシーンであなたとメグ・ライアンは、本当にアレをいたしているのか?」と聞いた記者がいるといい、「バカげている」と少し憤慨していた。
とはいえ、今となってはたくさんの映画で大活躍だ。実力さえあれば、しっかりと実績はついてくるものなのだ。
と、いうわけで、映画は後味悪いし、気分も悪いし、不愉快だが、マーク・ラファロだけは素敵な映画である。
ライター中山陽子でした。
イン・ザ・カット(2003)
監督 ジェーン・カンピオン
出演者 メグ・ライアン/マーク・ラファロ/ジェニファー・ジェイソン・リー/ケヴィン・ベーコン
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