【ギャングスター・ナンバー1】
ポール・ベタニーがサイコなギャングスターの映画

ギャングスター・ナンバー1　映画あらすじ

野心にあふれた若きギャングスターは、あるきっかけでフレディ・メイズの手下になる。そしてすぐに期待どおりの働きを見せ、フレディ・メイズを大いに喜ばせた。だがギャングスターは、紳士で洗練され人望も厚いフレディ・メイズを崇拝しつつ、密かにその地位を自分のものにしたいと考えていた。やがてフレディが1人の女性を本気で愛し始めたころ、敵対勢力の計画を知ったギャングスターは野心を加速させ、非情な行動に出る。

 

ギャングスター・ナンバー1　映画レビュー

主人公はギャングスター。映画のなかに彼の名は出てこない。彼は常に「俺は誰だ？　何者だ？」と、自分に問いかける。物語は、フレディ・メイズが出所したという話を聞いて顔色を変えた、ギャングスターの回想から始まる。

若かりし頃のギャングスターは、その一帯で名を馳せていたフレディ・メイズに憧れ、心底“彼になりたい”と願っていた。それが自分にとって最高の人生だと思えたからだ。仕立てのいいスーツをダンディに着こなすフレディ・メイズは、紳士的な振る舞いも身にしみついている。もちろんマフィアだけに暴力的な部分もあるが、ポール・マクギガン監督がインタビュー映像で言っていたように、善と悪どちらかと言えばフレディは“善”だ。「メイフェアの惨殺者」や「暗黒街の貴公子」といった異名を持ち、女性にもよくモテる。リッチで、広く豪華な家に住み、部下からの人望も厚い。

ギャングスターは、そのどれも欲しがったのである。

やがて、狡猾的に自分の地位を押し上げたギャングスターは、多くのものを手に入れた。だが、どんなに頑張っても、彼はフレディ・メイズになることも、超えることもできなかった。

若かりしギャングスターを演じたのはポール・ベタニー。 個性的な容姿ではあるけれど、基本的には背が高くてスタイルのいいハンサムな俳優さんだ。ただ、どうしてもお笑い芸人の中川 礼二氏に見えて仕方がない。そして、口を縦に大きく開き、悪魔の叫び声のようなものをあげる姿は、ほぼ『ムンクの叫び』だった。

また、紳士なモテモテのギャング、フレディ・メイズを演じたのはデヴィッド・シューリス。彼も独特な雰囲気を持つ、とても存在感のある人だ。

ちなみに、ポール・ベタニー190cm、デヴィッド・シューリス189cm、フレディが惚れたカレンを演じたサフロン・バロウズは183cm。筆者もどちらかというと背は高いほうだが、彼らに囲まれたら昔ドイツ・ケルン市の週刊誌に掲載されたエイプリルフール記事の宇宙人ぐらい小さく見えるかも。

存在感なら誰にも負けないマルコム・マクダウェルも出演している。日本でも人気が高いドラマ『メンタリスト』では怪しげな宗教家を演じている人だが、スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ（1971）』で主役のアレックスを演じた人でもある。

なお、マルコム・マクダウェルが演じるのは55歳になったギャングスターだが、彼以外は、30年前の姿を演じた俳優さんが、老けメイクをして同じ役を演じている。しかし、先述したとおりポール・ベタニーは190cmののっぽさん。マルコム・マクダウェルは174cmだ。つまり、ギャングスターだけが若いころと30年後の俳優さんが違うので、急に1人だけ不自然に背が低くなっているのだ。

このへんは、ポール・マクギガン監督の『時計じかけのオレンジ（1971）』への想いの強さを表しているような気がする。つまり、この暴力的で虚無に満ちた世界を描くにあたり、どうしても55歳になったギャングスターをマルコム・マクダウェルに演じて欲しかったのだろう。

物語の最後ギャングスターは、狂ったように欲したもの、追い求めていたものが、すべて空っぽだったことを知る。若かりしギャングスターは完全にサイコ野郎だったが、55歳のギャングスターは少し人間臭さをにおわせていた。「誰も俺を相手にしねえ」「別に殺したくて殺してきたわけじゃねえ」

それが本音だとしたら、あまりにも恐ろしい“若気の至り”である。

やはり彼は思ったのだろう。

「俺は誰だ？　何者だ？」

だが、それに答える者はなく、彼を憎む者さえもう彼に背中を向ける。虚無のなかで煙のようになってしまったギャングスターは、もう二度と「俺の目を見ろ」とは言わないだろう。

 

ライター中山陽子でした。

 

ギャングスター・ナンバー1（2000）

監督　ポール・マクギガン
出演者　ポール・ベタニー／マルコム・マクダウェル ／デヴィッド・シューリス／サフロン・バロウズ

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