【人生はビギナーズ】
かわいい犬に骨抜きにされ癒されるマイク・ミルズ作品
人生はビギナーズ 映画あらすじ
イラストレーターのオリヴァーは、ちょっと内気な性格の38歳。父も母も病気で亡くしている。母のジョージアが亡くなりしばらく経ってから、父のハルはゲイであることを息子に告白。戸惑う息子をよそに、父は人生を謳歌し始める。ところが、ハルの体は深刻な病に侵されていた……。
オリヴァーは、父の愛犬だったアーサーと会話しながら、父と過ごした最後の日々を回想する。そんななか、内向的すぎるオリヴァーを心配した仕事仲間に誘われたパーティーで、アナというフランス人女性に出会う。
人生はビギナーズ 映画レビュー
ゲイであることをカミングアウトした父と、
人とは少し違う行動をする、ユダヤ人の血を引いた母。
そんな自分の両親を「奇妙な動物たち」と呼んだオリヴァーは、人との深いかかわりを恐れるようになった。
なぜ父は母と結婚したのか。なぜ母は父と結婚したのか。もちろん、いまのようにはゲイであることを周囲に伝えにくい時代だったこともある。それでも幼い頃から見ていた母の不幸せそうな表情や、いつも家にいない父、母への愛を感じない父、自分への愛さえも感じられなかった父に、オリヴァーは疑問を持たずにはいられなかったのだ。
しかし、父がカミングアウトしたことで、さらには父が病気になったことで、オリヴァーは父との距離をどんどん縮めていく。そして父ハルは、病を意識して生きることをやめ、精一杯生きる日々を選んだ。
それから……、ハルの生命力にあふれた最後の人生を見送ったオリヴァーのもとに、1人の美しい女性が現れる。あるパーティーで出会った、フランス人女優のアナだ。
それって、かなりドラマティックな話だと思うのだが、どうやらこのオリヴァーはデザイン事務所か広告会社らしきところで働くイラストレーター。アルバムジャケットのデザインを依頼するアーティストなんかも訪れるようなので、パーティーでそういった職業の人に会うのはそれほど珍しくないらしい。
とはいっても、このパーティーへの参加は、仕事仲間で友人のシャナとエリオットが、彼を無理やり連れだしたために実現したこと。そのお陰で、めったに出会えないほど魅力的な女性に出会うことができたのだ。友人さまさまである。
ちなみに、アナの魅力は、とても思慮深く繊細で、感性が豊かなところだ。細身で小さな彼女が、オリヴァーを抱きしめたり、静かにそばで見守ったりする姿は、可憐で少しはかなげ、それでいて母性にも満ちあふれている。オリヴァーじゃなくても男ならすぐに恋してしまいそうな女性だが、彼女もまた心に思い悩むことがあるため、オリヴァーとの関係がしっくりくるのだ。
この映画がジンワリ描いていることは、どうにもならない人生だけど、信じてみよう、愛してみよう、やってみようということ。過去は変えられないが、自分と未来の選択は自由に変えられる。病気は治せないこともある。欲しい愛が手に入らないこともある。後悔に押しつぶされそうなこともある。「でも始めてみよう」なのだ。
映画を観終わったあと、心が存分に癒されたことをしみじみ感じた。
そして、なんといってもオリヴァーの相棒アーサーである。もともとは父ハルが飼っていたワンちゃんだ。映画冒頭から最後まで、アーサーのかわいらしさに完全にノックアウト。すっかり骨抜きにされてしまった。
ちなみに、アーサーを演じたのは、コズモ君というジャックラッセルテリア犬。彼はときどき賢者のように、あるいは幼い子供のようにオリヴァーと会話する。少しでも家を離れようとするとすぐ鳴き出すもんだから、オリヴァーは必ずどこにでもアーサーを連れていく。切ない鳴き声を聞くと置いていけなくなるからだ。
なお、オリヴァーを演じたユアン・マクレガーは映画の撮影後、「コズモのような犬がいない生活など考えられない」と、犬を買い始めたとのこと。あそこまで可愛いとそうなっちゃうだろうな(笑)。
父のハルを演じたクリストファー・プラマーも、アナを演じたメラニー・ロランも、もちろんユアン・マクレガーも、自然な演技がとてもよかった。ちなみにハルの若い恋人アンディを演じたゴラン・ヴィシュニックは、微妙なロン毛のせいでこの映画ではその魅力が伝わりにくいが、6代目ジェームズ・ボンド選考では候補のひとりだったらしい。
監督はマイク・ミルズ。とんとんリズムのいいカット割りや、何気にエッジの効いたシュールなイラストもすべてよかった。筆者は好き嫌いが大きく分かれた同監督の『サムサッカー(2006)』も好きだが、この映画はあそこまで癖はないと思う。
優しい気持ちになりたい人は、ぜひご賞味あれ。
ライター中山陽子でした。
人生はビギナーズ(2010)
監督 マイク・ミルズ
出演者 ユアン・マクレガー/クリストファー・プラマー/メラニー・ロラン/ゴラン・ヴィシュニック
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