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CINEMAバリQ

【日の名残り】
祝ノーベル文学賞受賞! アンソニー・ホプキンス主演
執事のストイックな人生

日の名残り 映画あらすじ

第二次世界大戦が終わり数年が経ったオックスフォード。主を失ったダーリントン・ホールは、アメリカの富豪ルイスの手に渡ることとなる。ここは、前の主ダーリントン卿が政府の要人などを招き、幾度となく会合を重ねていた場所。スティーヴンは、ダーリントン卿の時代からここで仕えている忠実な執事だ。ある日、働きづめのスティーヴンを見かねた主人のルイスは、たまには休みなさいと旅行をすすめる。そこで、ちょうど使用人不足に悩んでいた彼は、以前この屋敷で一緒に働いていたミス・ケントンを訪ねようと思い立つ。彼女がくれた手紙の内容に期待を膨らませながら旅をするスティーヴンは、かつて輝きに満ちていたダーリントン・ホールを回想する。

 

日の名残り 映画レビュー

到底誰も真似できないほどストイックな執事スティーヴンを演じるのは、どんな作品でも卓越した演技を見せてくれるアンソニー・ホプキンス。作り過ぎない自然な演技が映画を良質にする。深い切なさを残すが、とても静かで、穏やかな気持ちになれる映画だった。

スティーヴンの一貫したプロ意識は、時おり冷徹な人間だと人に思わせてしまうことがある。しかし、実は執事という陰の立場を徹底するがゆえ、感情を見せることが苦手になってしまったのだ。もちろん、自分から女性に愛を伝えるなんてことは到底できないだろう。

そういった彼の不器用な性質が特に表れていたのは、ミス・ケントンが号泣しているシーン。スティーヴンは知らぬ間に想いを寄せてしまった女性が号泣しているそばに立ち、不自然に淡々と連絡事項を伝えるのだ。いくらなんでも「どうかしましたか?」ぐらい普通は聞くでしょう(笑)

それが彼の動揺を示していることは明白だが、当事者にしたらたまらない。結局ミス・ケントンは、たった1歩を踏み出さないスティーヴンに期待するのを止めてしまう。スティーヴンのはかない恋心は、彼自身にさえ認識されずにダーリントン・ホールのなかを彷徨うばかり。

また、彼の、父ウィリアムに対する想いも同じ。年老いた自分の親に敬意を払いながら、ほかの使用人たちと同じように指導し、管理するのは、普通に考えればとても厄介なこと。しかも、父のウィリアムは長い執事経験ゆえ自負もあるのだ。

とはいえ、ウィリアムはもう老齢のため業務を完璧にこなすことができない。スティーヴンはプロに徹しているので戸惑いや動揺は見せないが、本当はどれほど葛藤する気持ちがあったことか。凛とした姿でキビキビ仕事をする、昔の父を知っていたらなおさらのことだろう。

だが、父親がかたく握りしめていた掃除用具の棚から、その手をほどくとき、ウィリアムがスティーヴンにある告白をしたとき、彼の眼の奥には“耐えがたい”と叫ぶ悲しみの色が広がっていた。それが本当のスティーヴンなのだ。

スティーヴンの喜びとは何だろう。彼の人生とはいったい何なのだろう。人は勝手にそう哀れむかもしれない。なぜならば、彼は誰かに仕える立場を最優先して、思いのままに行動したり、感情をあらわにしたり、投げ出したりしないからだ。でもそれは、執事という仕事に誰よりも誇りをもっているから。そして、尊敬できる主に仕えているからなのだ。

人を信じて疑うことを知らなかったダーリントン卿は、靄がかかったなか引き返せない道に足を踏み出してしまったので、悲しい人生を歩むことになってしまった。しかし、彼の思想はまったく違うところにあり、本来はスティーヴンの尊敬に値する人物だ。そう思える人がいて、そのそばに居られることは幸せだと思う。それに、新しい主のルイス氏も良さそうな人物だ。

なお、この映画はカズオ・イシグロの同名小説を映画化したもの。実はこの映画と原作は似て非なる部分が多い。スティーヴンの意識に、ダーリントン卿の人物像やその人生の終末、新しいダーリントン・ホールの主、ルイス氏というアメリカ人の人物像などが微妙に違う。小説に心酔した人が、この映画を観ると納得しがたいかもしれない。

イギリス人の喪失感とスティーヴンの人生を重ね合わせた原作のほうが切なさは大きい。ラストの味わいも原作のほうが深いかも。しかし、小説以前にこの映画を鑑賞した筆者は、出演者の良質な演技に満たされ、潔いほど可動域が狭い人生を送るスティーヴンに愛着を感じた。

 

ミス・ケントンを演じるのは、アンソニー・ホプキンスに負けないくらい演技派のエマ・トンプソン。アメリカ人の富豪ルイスを演じるのは元祖スーパーマンのクリストファー・リーヴだ。彼はこのあと落馬事故で車いす生活になったが、医療研究の進歩に生涯を捧げた真のヒーローになった。その彼の演技を見れることも、この映画のいいところだ。また、ダーリントン卿が名付け親になった青年はヒュー・グラントが演じている。

小説はブッカー賞を受賞し、アカデミー賞では8部門にノミネート。また、原作者のカズオ・イシグロ氏は日本時間の2017年10月5日『ノーベル文学賞』を受賞した。そんなわけで、あまりにも有名な映画だが、何よりもあのレクター博士が恥ずかしそうに赤らむ演技を見れる貴重な作品でもある。ぜひご賞味あれ。

 

 

ライター中山陽子でした。

 

日の名残り(1993)

監督 ジェームズ・アイヴォリー
出演者 アンソニー・ホプキンス/エマ・トンプソン/ジェームズ・フォックス/クリストファー・リーヴ

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