【裸のランチ】
バロウズの人生を奇妙に比喩したクローネンバーグ作品
裸のランチ 映画あらすじ
小説を書きながら害虫駆除の仕事をするリーは、麻薬におぼれ、もはや廃人状態になっている妻ジョーンを案じていた。だが、ある日リーは警察に嫌疑をかけられ、取り調べを受けることになってしまう。そして、刑事たちが少しのあいだ取り調べ室を離れると、1匹のゴキブリがリーに話しかけてくる。ゴキブリがいうには、ジョーンが悪の組織のスパイだというのだ。彼はそれを信じなかったが、妻の様子はどんどんおかしくなっていく。そんななか、リーとジョーンは、ウィリアム・テルごっこを始める。するとリーは誤って、ジョーンの額を撃ち抜いてしまう……。
裸のランチ 映画レビュー
自分史上もっとも気持ち悪い映画。この強烈なインパクトは他に類を見ない。とてつもなく悪趣味な映像が、まんまと長期記憶に保管されてしまった。
この映画は、1959年に出版されたウィリアム・バロウズの長編小説をもとにつくられた映画だ。監督・脚本はデヴィッド・クローネンバーグ。原作に忠実なわけではなく、どちらかというと原作者バロウズの実話を織り交ぜ再構成された、クローネンバーグのオリジナル作品になっている。
ウィリアム・バロウズは、ハーバード大学卒のアメリカ人小説家。1950年代にアメリカの文学界で異彩を放ったグループ、ビート・ジェネレーションを代表する作家のひとりである。また、1960年代にはイギリス人作家J・G・バラードらによってニュー・ウェーブSFの輝く星とたたえられ、ニルヴァーナのカート・コバーンらにも褒めちぎられていた人だ。
一方、クローネンバーグといえば、『ザ・フライ(1986)』『クラッシュ(1996)』『ヒストリー・オブ・バイオレン(2005)』『イースタン・プロミス(2007)』の監督である。そう聞いただけで、とても凡人の頭では理解しがたい内容が展開されると想像できる。ちなみに、クローネンバーグ監督は、学生時代よりウィリアム・バロウズの本を愛読していたらしい。
この映画のなかで主人公は、妻とウィリアム・テルごっこをした際に誤って妻の額を打ち抜くが、これは実話である。何らかの方法で罪は逃れたらしいが、バロウズの心には深く罪の意識が残ったという(当たり前だけどね)。 何の番組で、バロウズから後悔の言葉を聞いたと、友人らしき人物が語っていた。
映画のなかで主人公が妻を殺すシーンは2度あるが、2度目は彼が作家であると証明するためである。勝手な想像をすれば、向き合おうという意識のあらわれかもしれない。
このほかにも色々と実話がリンクしている。
バロウズはかなりの薬物常習者であったが、モロッコのタンジールに移住したとき、ドラッグと決別する姿勢を見せたという。この物語でも、主人公がすでに麻薬を絶ちクリーンであるといった描写がある。
また、主人公がゴキブリのタイプライターという、理解不能なツールでちょくちょく書いていた“報告書”とやらは、友人らの手助けで、書き溜めた文章をもとに完成させたこの映画の原作に他ならない。
タイプライターに女性器や男性器が生えてきたあたりは、バロウズがバイセクシャルであることを示しているのかも。そして、バロウズ自身も害虫駆除の仕事経験がある。
とまあ、そんな感じだが、性器があるタイプライターをなでなですると“それ”が悶えたり、ゴキブリのオバケやゴキブリのタイプライターが、尻だか何だかの割れ目から話しかけるのを見ていると、
とりあえず気持ち悪すぎて、もう分析しなくともいいやと思う。
昆虫が成長する過程につい惹かれてしまう、デヴィッド・クローネンバーグ監督の“こだわり”は見事に気色悪く表現されているのは確かである。
ライター中山陽子でした。
裸のランチ(1992)
監督 デヴィッド・クローネンバーグ
出演者 ピーター・ウェラー/ジュディ・デイヴィス/イアン・ホルム/ジュリアン・サンズ
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