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CINEMAバリQ

【砂漠でサーモン・フィッシング】
心に響いてあったかくて、ちょっぴりモヤモヤする映画

砂漠でサーモン・フィッシング 映画あらすじ

ある日、イギリスの水産学者ジョーンズ博士のところに1本のメールが届く。その内容が「イエメンで“鮭釣り”を実現したい」という依頼であったため、すぐに「そんなことは不可能だ」というメールを返信。しかし、中東政策に対する国民の目をそらし、釣り人票を取り込みたい首相官邸広報官がこの件に目をつけたことから、事態はイギリスの国家プロジェクトにまで発展。自分の意志で断ることができなくなり、ジョーンズは渋々この難問に取りかかる。すると、「イエメンで鮭釣り」依頼のメールを送ってきた代理人のハリエットは想像以上に魅力的な女性で、依頼主であるイエメンの大富豪シャイフも、想像とは全く違う人物だった。

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砂漠でサーモン・フィッシング 映画レビュー

監督は『ギルバート・グレイプ(1993)』『サイダーハウス・ルール(1999)』『マダム・マロリーと魔法のスパイス(2014)』『僕のワンダフル・ライフ(2017)』のラッセ・ハルストレムさん。DVDのパッケージには、ちょこんと可愛らしく座るジョーンズ博士役のユアン・マクレガーさんと、それを隣で見守るハリエット役の美しいエミリー・ブラントさん。しかも、その背景は砂漠で、足元には澄んだ水。

おまけにテーマは、国土の大半が砂漠の国「イエメン」での鮭釣り実現プロジェクトです。あったかくて優しくて、クスッと笑えて、少しだけうっすら涙がにじむような、ラッセ・ハルストレム監督らしい大人のファンタジーだと、観る前からすぐに想像できてしまいます。もちろんその期待は裏切りませんが、何かモヤモヤした気持ちが残る映画でした。

ただし、そのモヤモヤは物語の中の恋愛関係に限ったこと。「鮭釣りプロジェクトの背景にある熱い思い」や、「釣り愛好家同士の国境を越えた“つながり”」などは、胸に響くものがありました。

 

海外に別荘があるため、フライフィッシング経験もある大富豪シャイフが、母国イエメンでも鮭釣りができるようにしたいと言ったのは、単なる“大金持ちのわがまま”ではありません。彼は、砂の大地イエメンを、緑・水・生き物であふれた美しい土地に変え、戦乱とテロで荒廃してしまった人々の心を癒しながら、経済も再生させようという、崇高な目的を持っているのです。それに、彼自身も高潔で信頼のおける人格者。とても純粋な人柄でもあります。

それは、疑心暗鬼だったジョーンズ博士も驚くほどでした。

そもそもジョーンズ博士も真面目で不器用な人間です。おまけに趣味が「釣り」で魚が大好きなので(さかなクン?)、釣り好きな大富豪シャイフと信頼し合うようになるまでには、そう時間がかかりませんでした。釣りをする姿を観察し、その人物が信頼できるかどうか判断するなんて話は、釣り経験が1~2回ぐらいしか無い筆者にとっては複雑ですが(それが判断材料なら私は誰にも信頼されない)、映画の中で語るように描かれていた、静かな空気に包まれながら釣りをする人の後ろ姿は、とても印象的です。

 

現在もイエメン全土では、政府と反政府勢力との戦闘や、過激派組織によるテロ、誘拐事件などが発生しています。日本でも渡航を止め、滞在者にはすぐ退避するよう呼びかけている、危険度が最高の「レベル4」という状況。その中で、たとえそれが母国で、自身が大富豪とはいえ、崇高な精神を持ち続けることは難しいでしょう。

しかし、この物語で大切にしているのは「信じること」です。19世紀の作家ジョージ・アイルズは「希望とは、闇の中で手を差し伸べてくれる信念」と言ったそう。これ、米ドラマ『クリミナル・マインド』の受け売りですが、「信念=希望=信じる気持ち」なので、不可能であるとか無いとかは関係ありません。その行動は、あまりにもバカげていていますが、とても崇高なのです。

そんなわけで、この映画は、挫折しながらも闇の中で手を差し伸べ続ける物語。静かな感動を呼んでくれます。

 

では、何がモヤモヤしたのかというと……。恋人がいるけれど複雑な状況にある魅力的な女性と、夫婦の関係が破たんした状況にある男性が、出会って異国の地で惹かれあうのはいいのですが、盛り上がる2人以外で、あまりにも気の毒な人物がいたために、素直に応援しにくくなってしまったのです。まあ、それだけの話なんですがね。

この映画の原作は、ポール・トーディ氏の処女作『イエメンで鮭釣りを』。残念ながら体調が思わしくなかったために今作のプレミア上映には出席できず、2013年には亡くなってしまったそうです。

 

なお、小説では広報官が男性ですが、映画のほうは女性。それを実力派かつ演技派のクリスティン・スコット・トーマスさんが演じています。そんな映画『砂漠でサーモン・フィッシング(2011)』は、売ってはいけない1本といえるでしょう。もちろん、ご判断は皆様次第。ちなみに、バリQは買い取り価格の高さと、スピード査定が自慢。

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たびたび出てくる、イギリスの首相と広報官のシュールなLINEでのやり取りが、結構笑わせてくれます。日本では芸能人のLINE流出がありましたが、映画の中のそれが現実世界で流出したら、大変な事態になるでしょうね。そもそもLINEでやり取りしていないでしょうけど。

 

ライター中山陽子でした。

 

砂漠でサーモン・フィッシング(2011)

監督 ラッセ・ハルストレム
出演者 ユアン・マクレガー/エミリー・ブラント/クリスティン・スコット・トーマス/アムール・ワケド

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