【不機嫌なママにメルシィ！】
ギョーム・ガリエンヌの演じ分けが完璧な映画

不機嫌なママにメルシィ！　映画あらすじ

パリ16区の裕福な家庭で、ママから女の子のように育てられた3人兄弟の末っ子ギョームは、誰が見ても立派な「女性らしい男性」へと成長。その彼のお手本は、いつも不機嫌だけどエレガントなママだった。ときには家族でさえ間違えてしまうほど、ギョームは母親の所作を完璧に習得。そんな彼を、家族や周囲は100％ゲイだと結論づける。しかし、男らしいパパはギョームの「女性らしさ」が気に食わず、彼を強制的に男子校の寄宿舎に入れてしまう。案の定、ギョームはそこでイジメに遭い、のちに転校した学校では男子生徒に大失恋。やがて彼は、本当の自分を知るための旅へと出かける。

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不機嫌なママにメルシィ！　映画レビュー

1人2役の完璧な演技と、何だか“フランスらしい芸術的な笑い”を堪能できる映画でした。

フランスでは観客動員数300万人を超える大ヒットだったというこの作品は、セザール賞作品賞や主演男優賞含む、5部門を制覇したそう。芸術的な視点では後者の「受賞」は納得ですが、大ヒット作品となると“さすがフランス”という印象です。日本であれば、今作のように「1人の人間が自分のセクシャリティと向き合う作品」の大ヒットは、少々難しいのではないでしょうか。

主演は、演技派俳優のギョーム・ガリエンヌさん。フランスを代表する王立の劇団「コメディ・フランセーズ」を代表するスターです。実はこの物語、実際に女の子のように育てられたというガリエンヌさんの半生を描いたもの。同氏は監督・脚本・主演をつとめ、なおかつ「自分自身」と「自分のママ」を、完璧なほどに演じ分けています。最初は「ママ」がギョーム・ガリエンヌさんだとは分かりませんでしたよ。

もともとは自伝的戯曲で、舞台は2年間のロングラン大ヒットだったそう。映画の中でも舞台に立つガリエンヌ氏が、観客に話しかけるように「自分の心の旅で起こった数々の出来事」を伝えています。舞台では、登場する人物すべてを1人でこなしたのだとか。

いくつもの人物を演じ分けることで、人間が多面性であること、そして、先入観や偏見が無意味であることを伝えようとしたのかもしれません。実際に遭遇した逆境を、笑いに変えてしまうような「たくましさ」があるからこそ、放たれるメッセージも強いのでしょうね。

人は「自分が理解できないもの」に警戒心を抱きます。その存在が、自分にどんな影響をもたらすのか分からないうちは、安心できないから。それゆえに、「あの人は、こういうタイプ」と自分が理解できる範囲でカテゴライズして、安心感を得るわけです。生物学的に男性が男性に恋するなら同性愛者だと考える人もいます。しかし、ギョームは女の子の気持ちで男の子に恋したので、自分を異性愛者だと考えます。

そんな中、彼がママ以外にもお手本にしていた叔母が、「とりあえず試してみなさいよ（両方と寝てみなさいよ）。それで、あなたが男に恋したらゲイだし、女の子に恋したらストレート」と理屈抜きのアドバイスをします。叔母は、とにかく体で感じてみろというのです。そのときギョームはハッとしました。そう、ギョーム自身もまた、先入観に振り回されていたわけです。

要は、自分が真に、何を求めているか。

物語は淡々と進みますが、最後はとても意外な展開で幕を閉じます。しかし、結果そのものに意味はなく、重要なのはその過程と、それによって得られたこと。この映画でギョーム・ガリエンヌさんは、「大丈夫、悩むことはないよ。僕の人生を見てごらん」とメッセージを送っているのでしょう。先入観をなくし、偏見を避けることは、とても難しい。でも、人と触れ合い、ときに拒絶され、ときに通じ合えることで、物事の輪郭は少しずつ見えてくるのかもしれません。

 

そんな映画『不機嫌なママにメルシィ！（2013）』は、売ってはいけない1本といえるでしょう。もちろん、ご判断は皆様次第です。ちなみに、バリQの査定は速さが自慢。お荷物到着後、最短で24時間以内にご連絡いたします。

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旅の途中、ギョームはドイツで人気のスパに行くのですが、そこで浣腸係として登場するのがダイアン・クルーガーさん。美しい国際的な女優さんを、そんな場面で起用するのもギョーム・ガリエンヌさんのユーモアかもしれませんね。

ライター中山陽子でした。

 

不機嫌なママにメルシィ！（2013）

監督　ギョーム・ガリエンヌ
出演者　ギョーム・ガリエンヌ／アンドレ・マルコン／フランソワーズ・ファビアン／ダイアン・クルーガー

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