今日の1本 シュガー・ラッシュ (2012) 岸豊のレビュー
80年代から90年代にかけて、「ゲーセン」は子供たちにとっては夢のような場所だった。クレーンゲームやメダルゲーム、カラフルな画面に映し出されるキャラクターの数々は、いつだって楽しい時間と夢を与えてくれた。
そんなゲーセンを舞台に、ゲームの中のキャラクター、特に悪役キャラが、自分たちの役割にうんざりしている、という斬新な切り口からドラマを紡いだ本作には、「もう大人になってしまった、ゲーセンが好きだった子供たち」へのラブレターのような作品だ。
本作で特筆すべきは、ゲームの世界観を完璧に使い分けていることだ。例えば、最初に映し出される主人公のラルフのゲームでは、スーパーファミコンをほうふつとさせる、昔懐かしいドット絵を用いて、観る者のノスタルジーを掻き立てる。ラルフが迷い込むシューティング・ゲームの「ヒーローズ・デューティ」ではフルデジタルの美しい映像に合わせてEDMが鳴り響き、FPSらしい主観の映像も交えながら迫力のバトルを展開する。
男の子向けのゲームばかりだな……と思っている女の子が画面の前にいるのが分かっているかのように、中盤でヒロインのヴァネロペが現れて、可愛らしい背景がどこまでも広がるお菓子の国のレーシング・ゲームが始まる、という流れも良い!
映像で観る者を楽しませる本作は、そのストーリー性も高い。ヴァネロペは「レースに参加することを禁じられたヒロイン」であり、男性キャラクターが多く参加しているレースで活躍することを夢見ている。この「男性社会に挑戦する女性」という構図は、ディズニー作品ではかなり珍しく、彼女の現代のティーンエイジャーらしい振る舞いやキャラクターも、ディズニーらしさを良い意味で裏切っている。ヴァネロペのキャラクターに関しては、本作の多くのスタッフ、特に脚本家のジェニファー・リーが『アナと雪の女王』に携わったことを考えると、繋がりが見えてくる。ジェニファー・リーは本作で既に「アイデンティティの解放に向かって努力する女性の姿」を描いていたのだ。
人間は大人になると、「作り物に心なんてない」と思ってしまうものだ。しかし、もし自分たちを楽しませてくれるキャラクター心が有ったら?この問いかけはピクサーの大人気シリーズ『トイ・ストーリー』シリーズで既に実践されてきたが、本作は洗練されたアニメーションと「画面の中の画面」という新たな視点で「キャラクターの描き方」を見つめ直したのだ。
シュガー・ラッシュ
監督: リッチ・ムーア
もちろんゲームも高額買取
スピード宅配買取のバリQ