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CINEMAバリQ

バロン/映画あらすじ・レビュー(”ほらふき男爵の冒険”を奇才テリー・ギリアムが映画化)

バロン あらすじ

トルコ軍に攻められ廃墟となった中世ドイツの町のなかに建つ劇場内では、「ミュンヒハウゼン男爵の冒険」が興行され、戦争で疲れ果てた人々の心を癒していた。
そこに突然一人の老人が乱入し、「自分こそがミュンヒハウゼン男爵本人だ」と言う。
しかし、これは架空の人物だからと誰も信じない。

やがてトルコ軍の攻撃で劇場にも砲弾が直撃。負傷した老人を劇団の娘サリーが救うが、もはや劇場での興行はできなくなり、町も崩壊寸前で人々は絶望する。
そんななか、老人は町を救うと宣言し、仲間を探すために熱気球で旅に出るが、小さなサリーがこっそりもぐりこんでいた…。

バロン レビュー

この映画はまるで、奇妙で摩訶不思議な遊園地で、不気味なピエロから手渡されたオモチャ箱を開けてしまったようなもの。
しかし、最後に人々の眼差しは、否応なく希望へと向かうはず…そんな作品だ。

それもそのはず、監督・脚本は「モンティ・パイソン」シリーズや「未来世紀ブラジル(1985)」「Dr.パルナサスの鏡(2009)」「フィッシャー・キング (1991)」を手がけた奇才と呼ばれるテリー・ギリアムだ。

実は、私のなかで、なんじゃこりゃという感想しかなかった「ラスベガスをやっつけろ (1998)」もテリー・ギリアム作品。
ジョニー・デップが役柄のため本当に毛を抜きハゲになり、ベニチオ・デル・トロが役柄のため超肥満体型に変身した作品なので鑑賞したが、最初から最後までドラッグでイカれた目線のため観終えたあとは、青い空をボーっと眺めるしか術がなかった。
(でも何故かラストシーンは爽やか。そして、レモンパイが食いたくなる)

そんな奇才が、中世を舞台にアドベンチャー・ファンタジーを描いたのがこの作品「バロン」である。
ならば、なんとなく想像がつくはずだ。ひねくれたユーモアとセンスがあり、シュールなのだろうと。

もちろん、その期待は裏切らない。
まずは、老人がトルコ軍から放たれた砲弾に飛び乗った時点で、早速ファンタジーの世界に突入する。

しかし、座長の小さな娘サリーはこれで老人が本物のミュンヒハウゼン男爵だと確信する。
物語のなかで、小さなサリーがミュンヒハウゼン男爵の一番の理解者であり、導いていく人物であることが面白い。
子どもながら、やたらしっかり者なのだ。しかも、このちびっ子は幼いころのサラ・ポーリー。

サラ・ポーリーを認識したのは「死ぬまでにしたい10のこと(2003)」だったが、何よりも彼女の演技力に驚いたのは「あなたになら言える秘密のこと(2005)」だ。
あれほどまでに、人の心の深い傷をあらわにする演技はそう無い。
そんなサラ・ポーリーが幼い頃の姿を拝めるのも、この映画のお楽しみなのである。

町を救うと言った老人が、奇想天外な発想で生地を集め熱気球を作って旅に出ると、何故か簡単に月に到着する(空気はどうなってるんだ)。
そこに君臨する月の王と、月の女王のくだりは大人ジョークが炸裂。
月の王と女王は頭だけが自由に飛び回っているのだが、体は別行動なのだという。

しかし、体の感覚が脳に伝わるらしく、時折奇妙な声を出す。
そして頭は「体が下品だ」と嘆く。体はスケベタイムでも、頭は知的な話をしたがるのだ(笑)。

月の王は、残念ながら2014年8月にこの世を去ったロビン・ウィリアムズ。
知性と品位を持つ頭が、すぐエッチになる体を嫌う演技が面白かった。
彼はもういないのかと思うと本当に残念だ。

まあ、このように終始ファンタジーな映像のなかに大人ジョークが散りばめられ物語は進んでいく。

やがて、モテモテじいちゃんのミュンヒハウゼン男爵は、ちびっ子サリーとともに月から火山、魚の腹の中と旅を続け、一風変わった人々に出会いながら昔の仲間たちに再会するが、人並み外れた能力を持っているはずの仲間たちは、すっかり自信を無くし年老いていた…。

ミュンヒハウゼン男爵は実在した人物で、「ほら吹き男爵の冒険」という物語は彼が語った冒険の”ほら話”だという。
そして、この映画はその物語がもとになっている。

しかし、「ほら吹き男爵の冒険」は彼が語ったエピソードだけではなく、実は昔の民話も入っているのだとか。
それに、実際の彼は、話術に長けているだけでなく誠実な人柄だったらしい。

ちなみに、邦題になっている「バロン」は貴族の称号。
ただし、貴族のなかでも下層に限られるそうだ。なんでも上下をつけたがるんだなあ、どうでもいいが。

この映画は、監督のセンスと自由な発想で描かれている、摩訶不思議な世界観が魅力の作品だ。
しかし、何よりも注目すべきは最後の言葉かもしれない。

「門を開くのだ。機会を逃すな。恐怖で心を閉ざせば創造力が死ぬ。何よりも人間を壊すのは、無知や鈍感や服従だ。機会を逃すな!」
これを聞いて、ハッとした。少なくとも私は、自信を無くしていたことに向き合うチャンスをもらった気がする。

もしも、世の中の常識や、縦横に、上司の圧力や、部下の嘲笑に、もしくは周囲の無理解に悩んでいるならば、このメッセージに門を開く勇気を与えられるかもしれない。
これが、優等生タイプとは違うテリー・ギリアム監督の映画のなかで放たれたメッセージだから、なおさらグッとくるではないか。

映画のなかで、勇気と希望にあふれた町の人々は、ミュンヒハウゼン男爵のあとに続き堂々と歩み始める。
その目撃者になれば、そのパワーを受け取ることができるはずだ。私のように。
是非ご賞味あれ。

美しさが尋常じゃない若きユマ・サーマンの姿と、あのスティングが、まさかの役柄でちょこっと登場しているのもお見逃しなく!

映画と現実の狭間でROCKする中山陽子(gatto)でした。

バロン(1989)

監督 テリー・ギリアム
出演 ジョン・ネヴィル/サラ・ポーリー/エリック・アイドル/オリヴァー・リード

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