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ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日/映画あらすじ・レビュー(幻想と哲学が奏でるアン・リー協奏曲)

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
あらすじ

スランプ気味のカナダ人小説家は、ある老人から「パイ・パテルの話を聞けば奇跡を信じるようになる」と教えられ、その人物のもとを訪れる。
そこで、彼が沈没していく船から偶然にも数匹の動物とともに脱出し、227日ものあいだ、獰猛なベンガルトラと漂流していたという信じがたい経験を聞かされる。

その経験はあまりにも美しく、残酷であり、また神秘的であったため、カナダ人小説家はその話にのめり込んでいく。

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日
レビュー

映画の冒頭で、なんとも“おどけた仕草”や表情をする色彩豊かな動物たちが画面からエネルギーを放つ様子を観て、胸が高まるのがわかった。
「きっと、想像もつかないような世界が繰り広げられるはずだ」と感じられたからだ。

実を言うと、これまでアン・リー監督作品と、僭越ながら私の相性はいまひとつだった。
それゆえに、少しだけ“色眼鏡”をかけて鑑賞し始めたという状況があったのだ。
しかし、映画が始まった途端、その先入観は早々に払拭された。オープニングから終わりまで、そのセンスに圧倒され続けたのだ。

この映画は、ファンタジーを潤滑油にした人生の哲学だと、私は感じる。
潤滑油は、「スムーズに人の心に入り込むためのもの」を意味している。
哲学という言葉は、あまりにも硬くて難解なかたちなので、飲み込むには相当の咀嚼力か、相当な柔軟さが必要だからだ。

実際、哲学そのものはシンプルなのに、多くの言葉や解釈がそれを難しくしているという節もある。
「結局生きることは手放すことだ」と、すっかり大人になった主人公のパイ・パテルはいう。
私はこの言葉を、「成長すれば強くなると子供は思うが、弱さを認めるのが成長で、生きるとは弱くあることだ」という、作家のレングルが伝えた言葉に似ていると思った。
日本の小説家、山田詠美さんも「無銭優雅(2007・幻冬舎)」のなかで似たようなことを伝えている。

人生を送り多くの経験をすることで、人は自分のなかに蓄えができたと感じる。
しかし、実際には、経験が人を臆病にさせ、生きるほど別れの経験が増えていく。
つまり、生きることは引き算で、誰もが「無」へと向かっているのだ。
人によって捉え方は違うと思うが、私はそのように考えると気が楽になる。

また、この映画のなかでは2つの物語が語られる。
パイ・パテルは、カナダ人の小説家に「起こったことは同じ、どちらの物語がいい?」と聞く。
そこで、小説家が答えたことは、人生を生きやすくするヒントではないかとも思う。

言葉にすると凡庸だが、人生に起こる苦しみを、自分にとって心地良いかたちで捉えるという発想だ。
もちろん、この映画では決して満面の笑みで「楽天的思考のすすめ」をしているわけではない。
しかし、過酷な経験をしたパイ・パテルが洗練された物腰の大人になり、不自由のない穏やかな生活を送っていられるのは、自分に起こったことを腹に溜めず、哲学に変えて消化したからだ。

哲学とは、自分に起こったこと、見聞きしたことなどの物事を客観的に捉え、その意味を求め、自分なりの答えを見出すことだ。
著名な哲学者が残している言葉は、あくまでも個々に与えるヒントでしかない。誰もが生きている限り哲学者になれるのだ。

映画に登場したハイエナも、シマウマも、オラウータンも、ベンガルトラも、ミーアキャットも、トビウオも、マッコウクジラも、それらに似たような登場人物たちは遠からず我々の周囲にいて、映画のなかで描かれていた夢のような景色も、誰もが一度や二度は経験する感動的な景色にとって代わるはずだ。
そして、究極をいえば「救助ボート」と「危ういイカダ」は誰にも当てはまる人生そのものだろう。

映画を観たあと、あまりにも神秘的で美しい映像と、トラの姿がなかなか頭から離れなくなる。
数々の言葉も、自分のなかの怒り(悪)が生きる活力になることも、倫理や道徳を超えて人々の胸に鋭く突き刺さる。
しかし、すべてはファンタジーな世界が、細かく生まれては消えていくシャンパンの泡のように、幻想にしてくれるはず。

夢あふれる冒険映画とは全く違うことを承知したうえで、是非ご賞味あれ。

映画と現実の狭間でROCKするライター中山陽子(gatto)でした。

ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日(2012)

監督 アン・リー
出演 スラージ・シャルマ/イルファン・カーン/ アディル・フセイン/タッブー

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