ボーダーライン(ベニチオ・デル・トロ出演の骨太すぎてホラー並みに心拍数をあげる映画)
ボーダーライン 映画あらすじ
正義感にあふれるFBI捜査官のケイトは、誘拐事件の捜査中に思いがけない出来事で仲間を失ってしまう。
そんななか、上司が同席する公式の場で、麻薬カルテルを束ねるマニュエル・ディアスの捜査に加わるよう国防総省から誘われる。
とはいえ、捜査への参加は個人の意思に委ねられおり、しかも専門分野外。
しかし、マニュエル・ディアスが仲間を奪った誘拐事件の首謀者とされるため、捜査に参加することを決断する。
しかし、やがてケイトが目にしたものは、すべてにおいて正義と悪の境目がない世界だった。
ボーダーライン 映画レビュー
「トラフィック(2001)」でベニチオ・デル・トロが演じたハビエールがとても好きだったので、大いに期待したこの作品。
期待通り、デル・トロはたまらなく魅力的だった。
しかしながら、個人的には、やはりハビエールに軍配をあげてしまう。
なぜならば、ハビエールというキャラクターは、無力さにあえぐ部分と底力、両方がしっかりと描かれていたから。
しかし、この映画「ボーダーライン(2015)」でベニチオ・デル・トロが演じたアレハンドロは、すでに、そのすべてを超越してしまった人物だ。
ただ、ところどころで会話やエピソードに見え隠れさせているアレハンドロの過去においては、苦しみ悶えた日々があったことをうかがわせている。
まあ、なんにしても、相変わらず“しびれる”ほどの存在感があり、男臭い色気をプンプン漂わせていた。
ベニチオ・デル・トロだけではなく、ジョシュ・ブローリンが演じたイージーゴーイングなマットをはじめ、笑顔の下に一筋縄ではいかない強靭さを持つ男たちにも引きつけられるものがあった。
彼らの存在が、この映画に重みを与えているのは確かである。
また、重厚感のある音響もこの映画の大きな特徴だろう。
メキシコ国境の町フアレスとされる街並み全体を映し出していく際、その重低音が内臓を揺さぶるのだ。
何かが起こりそうな空気は、もはやホラー映画に匹敵するかもしれない。
観客は主役のケイト同様に、「一体これから何が起こるのだ」という不安感にさいなまれ脈拍が加速する。
臨場感たっぷりの手に汗握る瞬間を、何度も何度も体感させられるはずだ。
そして、想像をこえた「悪」が支配する世界の存在を、否が応でも知ることになる。
映画の話ではなく実際に、メキシコでは数千人規模で警察官が汚職にかかわっていたことが知られている。
そうしたいというよりも、そうせざるを得ない状況なのだろう。
そんな世界に身を置いていたら倫理観を保つのは到底難しいが、どんな立場の人間も自分の家族だけは守ろうとする。
まあ、その部分だけが救いだろうか。
そこに引きずり込まれる可憐なFBI捜査官ケイトを演じるのは、「オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014)」でも激しいアクションをみせてくれたエミリー・ブラント。
あくまでも個人的な意見だが、エミリー・ブラントは線が細すぎてあまりアクションが似合わない。
それは、「オール・ユー・ニード・イズ・キル(2014)」でも感じたのが正直なところ。
なおさら今作品は、見栄や虚栄をいっさい持たず、リアルな経験と能力と、強靭な肉体と精神力を持つ男たちに囲まれている。
彼らの行動や佇まいは、常軌を逸している状況においても冷静に行動できるだろうという安心感がある。
それが、より彼女をパワフルなFBI捜査官ではなく、か弱い女性に見せてしまうのだ。
しかし、線の細い彼女がこの役柄に抜擢された意味は、のちのち理解できるようになる。
男どもは、飾らないが美しいケイトを女性としては扱わないし、注目もしていない。
しかし、守るべき存在として扱う。彼らにとっての興味は、ある目的を達成することだ。
そして、その目的を達成するためには、時間も、人材も立場もいっさい無駄にできない。
そんな彼らが見せる迷いのない行動は、優等生のケイトや相棒のレジーを混乱させる。
では、この映画は「悪をもって悪を制す」お話なのかといえば、そう単純でもない。
この映画で描いているのは紛れもなく「究極のバランス」だ。
そして、それを成すには清濁併せ呑むような許容が必要で、その状況のなかに悪が必要になる場面が生まれる。
しかし、バランスが秩序を保つ世界は、メキシコという国にだけ存在するのではないはずだ。
どこの世界にも、自分たちが与り知らぬうちに、想像もつかない方法でバランスが保たれているのだ。(きっと)
映画と現実の狭間でROCKするライター中山陽子(gatto)でした。
ボーダーライン(2015)
監督 ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演 エミリー・ブラント/ベニチオ・デル・トロ/ジョシュ・ブローリン/ヴィクター・ガーバー
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