【クライング・ゲーム】
ゴシック・ホラーも得意なアイルランド人監督ニール・ジョーダンが世界的注目を浴び始めた作品
クライング・ゲーム 映画あらすじ
アイルランドの武装組織に誘拐されたイギリス軍兵士ジョディは、そのアジトでファーガスというアイルランド人に出会う。
ファーガスが見張り役であったことから、立場を超えた友情が芽生えるが、その矢先にジョディが不運に見舞われ、アジトも軍の襲撃により壊滅する。
やがてファーガスはイギリスに渡り、ジョディから恋人ディルに伝えて欲しいと頼まれた伝言を渡すため、彼女を訪ねていくが…。
クライング・ゲーム 映画レビュー
「あんたは親切なんだ。それが、あんたの性(さが)なのさ。」
そんなジョディの言葉が、すべてを物語る映画。
それは、引用された「サソリとカエルの話」しかり、オープニングにかかる「男が女を愛する時(パーシー・スレッジ)」しかり、ファーガスとディルしかり。
結局サソリは毒針で誰かを刺してしまうし、男は悪女と知りつつ女を愛してしまう。
ディルにも逃れられない性(さが)があり、ファーガスは結局「親切心」を捨てられない性(さが)なのだ。
この映画の登場人物は、誰もがその性(さが)に翻弄され、幸にも不幸にも、自由自在に転がっていく。
しかし、ラストシーンで、ファーガスとディルが向かい合い会話する様子を目にしたとき、それまでの血生臭さも忘れ、「なんてチャーミングなストーリーなんだ」と思わずにはいられなかった。
当時、スティーヴン・レイとフォレスト・ウィテカー をはっきりと認識できたのは、この映画のお陰だ。
作品としての高い評価に加え、センセーショナルな描写によって残された印象はとても強い。
だが、それにもまして、彼らはさすがの演技力を見せつけ、この映画をより印象深いものにした。
物語最初にファーガスとジョディが友情を抱いていく過程では、深刻な状況に皮肉とユーモアが入り交じるという複雑な演技を、抑えた感情表現で見事に演じていた。
また、この作品で特筆すべきは、なんといってもディルの存在である。
ディルを演じたジェイ・デヴィトソンは当時デザインの仕事をしていたが、パーティーでたまたま関係者の目に留まりスカウトされた。
つまり、まったく演技経験がなかったにもかかわらず、いきなり第65回アカデミー賞候補の一人になったのだ。
だが、この人がショーレースに躍り出た理由は、演技力というよりも、その独特な存在感のせいだろう。
初めてファーガスと出会ったときディルは彼に、アイルランド訛りの英語が魅力的だと伝えていた。
しかし、そんな言葉を発するディルこそが、神秘的な魅力に包まれていた。
「ディルは特別なんだ」とジョディはいう。その特別という言葉が、ただ単純に隠されたディルの真実を示しているだけとは到底思えない。
それほど、このキャラクターは不思議な魅力に溢れていた。そして、見た目よりも、その性質において、とてつもない可愛らしさがある。
だが、この映画で有名な「あっ」と驚くシーン以上に、近年のジェイ・デヴィトソンの姿に驚いてしまった。
いたって普通の姿ではあるが、ディルを演じた当時のジェイ・デヴィトソンの魅力は、あくまでも「曖昧さ」だったので、いや本当に失礼ながら…なんとなく残念。
とはいえ、この映画を観れば、また当時のディルに会える。
アンニュイに「Crying Game・涙のゲーム(ボーイ・ジョージ)」を歌い、ひたむきにファーガスを見つめ、「愛なのね…」と言ってのけるディルにだ。
では、ファーガスの本心とはいかに。
その行動は「愛」なのか…それとも「性(さが)」なのか。
それは「どうぞ勝手にご想像を」と観る人々に委ねられ、描かれていない物語の続きでファーガスは、きっと、一途で可愛らしく、そして少し手が焼けるディルに「やれやれ」といいながらも、ずーっと見守っていくことだろう。
ライター中山陽子(gatto)でした。
クライング・ゲーム(1992)
監督 ニール・ジョーダン
出演 スティーヴン・レイ/ミランダ・リチャードソン/フォレスト・ウィテカー/ジェイ・デヴィトソン
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