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CINEMAバリQ

【ザ・セル】
現在公開「セルフレス/覚醒した記憶」も気になるターセム・シン監督作品

ザ・セル 映画あらすじ

小児精神科医のキャサリンは、先進的な医療施設で昏睡状態にある少年の潜在意識のなかに入りこみ、回復を目指すという治療に取り組んでいた。
そんなある日、昏睡状態に陥った連続殺人犯カールの潜在意識に入り込み、彼が監禁している女性の居場所を突き止めてほしいと、FBIから依頼が舞い込む。
やがてキャサリンは、常軌を逸した異常な意識世界を目の当たりにして、底知れない恐怖を感じることとなる。

しかし、そのなかには素直な少年カールが存在していた。

ザ・セル 映画レビュー

圧倒的な映像美と、“頭がおかしい世界”の底なし沼に引き込まれる感覚。
しかし、おぞましさを感じながら、処理しがたい感情で胸が締めつけられてしまう…。

好き嫌い問わず、記憶のなかに強烈に刷り込まれてしまうこの作品は、日本が誇る石岡瑛子さんが、衣装デザインで高い評価を受けた作品としても有名だ。

ターセム・シン監督と石岡瑛子氏は、この「ザ・セル(2000)」だけではなく、「落下の王国(2006)」「インモータルズ(2011)」「白雪姫と鏡の女王(2012年、衣裳)」でもタッグを組んでいる。
それは、間違いなくターセム・シン監督が、映像の魔術師と呼ばれるゆえんでもある。

映画が始まると、冒頭から「潜在意識のなか」という想像をはるかに超えた空間に吸い込まれる。
その映像のなかから感じ取れるのは、いずれも孤独感だ。

それもそのはず、潜在意識は自分たったひとりの王国。王は紛れもなく自分であり、仕えるものはすべて自分の記憶。
記憶の断片が、ちぐはぐに合わさり、奇妙なかたちを成したものたちだ。

とはいえ、それが純粋な少年や、心優しき人のものならいいが、連続殺人犯の潜在意識となると、考えるだけでも逃げ場のない恐怖感に襲われる。
そこには、警察も、助けてくれる人もいない。ただ、悪が支配する奇妙でおぞましい世界でしかないのだ。

ところが、その異常な世界のなかで、キャサリンはひとりの少年に出会う。
邪悪な殺人鬼と少年の存在は、主人公のキャサリンと同じように、映画の観客たちも、苦悩する陪審員に変えてしまう。

現実の世界で、日々耳を疑う事件をニュースなどによって知る。
それを知るたびに、罪を犯した人間に対し、それ相当の罰を与えてほしいと願う。
法でそれが成されなくても、どうか必ず罪人には、被害者と同じ苦しみが天から与えられるようにと、感情に任せて強く願うのだ。

「セブン・サイコパス(2012)」のなかに登場したある夫婦は、殺人鬼ばかりを狙い残虐に殺し歩いていた。
そのシーンを観る際、罪なきひとを苦しめ惨殺した悪魔に同情の余地はないと、自分の倫理と道徳を、ステレオタイプに解釈した「ハムラビ法典(目には目を~)」という金属でできた布で覆いかくした。

しかし、この映画のストーリーは、その強固な金属の布を、バサリと風で跳ね除けようとする。

「コントロール (2004)」のなかで、レイ・リオッタ演じる死刑囚が人格を変えた状況にも心が締めつけられたが、今作品に比べてもう少し単純であり、観る側としても心を整理しやすい。
しかし、今作品の場合、混在する無垢と邪悪が明確に存在を示すあまり、気持ちを混乱させてしまう。

だが、最終的に物語は、ある意味都合のいい展開になっていく。そうでなければ救われない。
この映画は、光のような「救い」をつくることで、芸術的趣向に偏りすぎない映画になったかもしれない。

小児精神科医のキャサリンは、セクシーなラテン姐さんジェニファー・ロペスが演じている。
終始穏やかで優しい目が印象的だったが、最後に現実の世界で、必要以上に服をはだけて肌を露出している不自然さには、少しばかり突っ込みたくなった。

そして、なんといっても連続殺人犯を演じているヴィンセント・ドノフリオ。
狂った人物を演じさせたらピカイチなのは、スタンリー・キューブリックの「フルメタル・ジャケット(1987)」から知られているが、個人的にはアメリカの犯罪ドラマ「LAW & ORDER:クリミナル・インテント」で演じている、天才刑事ロバート・ゴーレン役が一番お気に入りだ。

なお、残念ながら、2012年1月、石岡瑛子氏は73歳でこの世を去った。
彼女の死を受けてターセム・シン監督は、映画を制作するにあたり、石岡瑛子氏の代わりになるような人はいないから、選ぶ映画の題材が変わったと伝えている。

そのためか、日本では現在公開されているターセム・シン監督映画「セルフレス/覚醒した記憶(2015)」は、これまでとはイメージが異なるSFアクションになっている。
「デッドプール(2016)」のライアン・レイノルズと、「ガンジー(1982)」のベン・キングズレー共演のSFサスペンス・アクションというだけで興味をそそられるが、それにターセム・シン監督となれば、観ないわけにはいかなそうだ。

ライター中山陽子(gatto)でした。

ザ・セル(2000)

監督 ターセム・シン
出演 ジェニファー・ロペス/ヴィンス・ヴォーン/ヴィンセント・ドノフリオ/マリアンヌ・ジャン=バプティスト

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