【トースト ~幸せになるためのレシピ~】
英国のシェフでフードライターのナイジェル・スレイターの自伝をもとにした映画
トースト~幸せになるためのレシピ~映画あらすじ
病気がちな母と、支配的な父のもとで生まれ育ったナイジェルの趣味は、夜な夜な料理の本を開き、その味を想像すること。
それもそのはず、ナイジェルの母はトーストしかまともに焼けない極度の料理下手だ。
しかし、ナイジェルは、やさしく愛情深い母を心から愛していた。
だが、残酷なことに、病がまだ幼い彼から母親を奪ってしまう。
やがて、傷心の父とナイジェルがぶつかり合いながら暮らす家に、並はずれた料理の腕と掃除の知識をもち、下品なオーラを放つポッター夫人が入り込んでくる。
そこからナイジェルとポッター夫人の、しれつな戦いがはじまる。
トースト~幸せになるためのレシピ~映画レビュー
この映画は、フードライターであり、料理人でもあるナイジェル・スレイターの自伝をもとにつくられた作品だ。
そのため、当たり前のごとく美味しそうな料理がわんさか登場する。
しかし、「うわ~すごい料理!」と感情が高ぶるのは、ヘレナ・ボナム=カーター演じるポッター夫人が登場してから。
彼女が登場する前は、致命的に料理が下手な母親の料理を見せられ、観客さえも弱ってきそうなほど。
なんせ、もっぱら野菜は缶詰だけなのだが、それさえも湯せんで温める際に焦がし、結局トーストだけのディナーになってしまうという始末。
そんな食生活じゃ野菜の酵素はもちろん、ビタミンやミネラルの摂取も十分にできない。
「父が短気なのは栄養不足のためだろう」というセリフがあったが、まったくもって正しい見解だと思う。
まだ幼いナイジェルの体や脳の発育だって心配だ。
しかし、そんな観客の心配をよそに、「料理は下手だけど性格はバツグンにいい」と母を慕うナイジェルは、母が焼いたトーストが大好物のようで幸せいっぱいに噛みしめていた。
観ているこっちもトーストだけのディナーにげんなりしていたのに、その昇天するような表情につられ、バターが香るトーストを食べたくなってしまう。
ラストの方で、本物のナイジェル・スレイターが重要な役割をもつ端役で登場するが、その際もトーストを手にしていた。
結局、この料理下手な母がナイジェルを「食」に執着させ、のちにプロへと導く原動力となったようだ。
しかし、それは実母だけではない。
使用人として入り込み、やがてナイジェルの父親の胃袋をガッチリとつかみ、どこかほかの場所もつかみ、妻の座まで勝ち取ったポッター夫人も、フードライター兼シェフである人物をつくりあげた立役者といえる。
しかし、結局のところその役割は父にもあった。母を失ったあと、ナイジェルは父に食べてもらうため、必死に料理を覚えていく。
それが、やがて自分のためであると気づくまで、彼は父の「美味しい」とよろこぶ声を、「よくやった」と認める言葉を、なんとしても聞きたかったのだろう。
最終的には努力のオバサンにさえ見えたポッター夫人は、母の居場所を奪った憎い女であると同時に、父の愛情を奪い合うライバルであったため、ナイジェルが心を開くことはなかったようだ。
ヘレナ・ボナム=カーターの演技力がものをいい、ポッター夫人は、普通に眺めたら、下品で野蛮で性に貪欲ないやらしい女だ。
しかし、裕福な人々に対して臆することなく、自分が努力を重ねて得た家事スキルにおいては誇りを持っている。
だからこそ、どんな人間からも一目置かれてしまうのだ。
それに、料理上手は“あちらの方”も上手というから、なるほどナイジェルの父が骨抜きにされたのも納得できる。
そして、ナイジェルの父について…
最初はなんて支配的で嫌な父親だと思ったが、病気がちで料理下手な母親を責めることなく、最後まで愛情を注いでいた。
それに、ポッター夫人にチラ見せさせられるガーターベルトに鼻の下を伸ばしながらも、先妻への愛情を持ち続けていることが感じられる。
ナイジェルがつくった焦げ焦げの料理を、無理して美味しいと言いながら食べてくれる優しさもあった。
むしろ、裕福な家で生まれ育ったナイジェルが、使用人であるポッター夫人の地味な家を指さし、「あんな暮らしをしている人なんか」的な発言をしたり、最後オドオドしながらナイジェルにすり寄るポッター夫人を、冷たくあしらう様子を見て「おや?」と思う部分があった。
しかし、もし、自分が同じ立場だったらと考える。
ふくよかで愛情にあふれた母がいた場所に、エロエロオーラ全開のスーパー主婦が我が物顔でいたら、とてもいい気はしないだろう。
しかし、彼女がいかに料理上手であったかが描かれているのを観ていると、この映画の製作に深く入り込んだであろうナイジェル・スレイターが、「あの女は大嫌いだけど、自分が料理の腕を上げたのは彼女のおかげ」と感じている部分もあるからかもしれない。
ちなみに、少し大きくなったナイジェルを演じたのは、「チャーリーとチョコレート工場 (2005)」の猛烈にかわいくて食べちゃいたいぐらいだったフレディ・ハイモア君。
なんだかヒョロ~と伸びたので、もう食べちゃうことはできないようだ。
途中、彼がゲイであることや、父親が秘密結社として知られるフリーメイソンにも所属していたことがわかる。
ただ、ゲイであることが何か特別という風でもなく、イケメン庭師の着替えあたりから伏線をはり、とても自然な流れで描かれていた。
また、フリーメイソンの交流会は限りなく明るく、秘密結社ともほど遠い。継母がやってきて、それに馴染めない子供の話も少なくはない。
料理が下手な母親なんて、世界中に山ほどいるだろう。
しかし、そのどれもがやはり独特で、ほかにはないような人生を見せられた気になる。
ポッター夫人がつくる料理があまりに多すぎて、最終的にはナイジェルの父が「もうお腹いっぱい」とギブアップしたように、観ている側も消化不良を起こしそうだったが、この映画を観ると、否応なくナイジェル・スレイターに興味がわいてしまうのではないだろうか。
ライター中山陽子(gatto)でした。
トースト~幸せになるためのレシピ~(2010)
監督 SJ・クラークソン
出演 ヘレナ・ボナム=カーター/フレディ・ハイモア/ケン・ストット/ヴィクトリア・ハミルトン
SJ・クラークソン監督作品の買取金額の相場はこちら
ヘレナ・ボナム=カーター出演作品の買取金額の相場はこちら
フレディ・ハイモア出演作品の買取金額の相場はこちら