【裏切り者】
ジェームズ・グレイ監督の静かなる父親への憎悪と愛がにじむ映画
裏切り者 映画あらすじ
仲間をかばい服役していたレオは出所の日を迎え、久しぶりに母や友人たちと再会する。
悪友ウィリーは、レオの叔父フランクが経営する会社で働いており、仕事もプライベートも順調そうだ。
今度こそまっとうな人生を歩み、病弱な母を養っていこうと決意したレオに、叔父のフランクは技術系の仕事に就くための学校をすすめ、援助を申し出る。
しかし、自分が稼いだお金で一刻も早く母を楽にさせてあげたいレオは、フランクのもとで働くウィリーのような仕事を望む。
この選択が、レオを絶望的な立場に追い込んでいく。
裏切り者 映画レビュー
まだ初々しい主役級の俳優陣マーク・ウォールバーグ、ホアキン・フェニックス、シャーリーズ・セロンに、熟練組がジェームズ・カーン、エレン・バースティン、フェイ・ダナウェイというものすごい面々が出演しているこの映画は、監督のジェームズ・グレイが、実際に体感した事件がもとになっているという。
1986年、アメリカのニューヨーク市クィーンズ区長の、ドナルド・メインズが自殺するという出来事があった。
収賄の発覚で窮地に立たされたことが原因だったようだ。
これは、地下鉄車両修理や部品の納入を請け負う業者と、区の役人の癒着が表沙汰になり、一大スキャンダルとなった事件の一部の出来事である。
監督のジェームズ・グレイの父親は、その時期に地下鉄部品納入会社の経理重役をしていたという。
つまり、贈賄側だったのだ。当然、彼の父親もスキャンダルに巻き込まれただろうし、その家族である監督もつらい思いをしたはずだ。
監督の父親がモデルとなった登場人物は、ジェームズ・カーンが演じたレオの叔父フランクだ。
終盤フランクが、レオにとってはこのうえなく理不尽な言葉を、もっともらしく伝えるシーンがある。
そのときのレオの、冷たく静かな青い炎を放つ目は、まさに監督からの父への思いだったかもしれない。
単純に例えれば善人面した悪人といったところだが、フランクは、善と悪がツタのように絡みあう複雑な人物像だ。
ただ、家族のために悪になるとか、善を目指して悪で収めるといえばカッコいいが、結局は自己保身が最優先の冷酷な人間だと感じる。
もちろん、それはあくまでもジェームズ・カーンが演じたレオの叔父フランクのことであり、監督の父親の性質がそうであったかは、与り知るところではない。
なお、ジェームズ・グレイ監督の父親は、この映画にレオの弁護士役で出演している。
それがジェームズ・グレイ監督の父への愛なのか、「家族も巻き込みやがって」という戒めなのかわからない。
ただ、父親側の立場から見ると、この出演は息子への誠意かもしれない。
ちなみに、この映画では叔父のフランクよりも、ホアキン・フェニックスが演じる友人ウィリーの悪しき性質の方が、レオを苦しめている。
題材といい、監督の立場といい、実話がもとになっていることいい、この映画を明るくするものは何ひとつない。
よって、終始ずっと不穏で暗い雰囲気が漂っている。ただ、気持ちが晴れないわけでもない。
物語は一応、勧善懲悪で仕上がっているので、ただひとつの理不尽な死を除けば救われる部分もある。
しかしながら、実話そのものが後味の悪いものなら、もちろんそれを題材にした映画も後味が悪い。
何にしても、友人と仕事は、しっかりと選ばなきゃと強く思わせる映画であった。
ライター中山陽子(gatto)でした。
裏切り者(2000)
監督 ジェームズ・グレイ
出演 マーク・ウォールバーグ/ホアキン・フェニックス/シャーリーズ・セロン/ジェームズ・カーン
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