【おみおくりの作法】
名優エディ・マーサン主演の心を震わす感動の物語
おみおくりの作法 映画あらすじ
ロンドン南部、ケニントン地区の民生係ジョン・メイの仕事は、孤独死した人の葬儀を執り行うことである。公務員として事務的に行うことも可能な仕事ではあるが、ジョン・メイは労力も時間も惜しまず、誠意をもって尽力していた。また、細やかな調査にもとづいて弔辞の言葉を選び、その人にあった音楽を選ぶことで、故人の尊厳を守り抜いていた。そんな彼のもとに、また孤独死の連絡が入る。しかし、その人物の暮らしていた場所が、自分の住まいの真向かいであったことにショックを受ける。さらに上司からの通告がジョン・メイを追い込むが、それらがきっかけとなり、多くの出会いと変化が彼のもとに訪れはじめる。
おみおくりの作法 映画レビュー
『孤独な死』を題材にした映画なのに、むしろ人との縁を感じさせてくれる、暖炉のようにジンワリ温かい映画だった。そして、驚くような展開に唖然とし、いいようのない感動に心を揺さぶられた。
国内外で注目された邦画『おくりびと(2008)』の影響で、このような邦題がついたかもしれないが、原題は『Still Life』である。
直訳すると「静止画」という意味をもつこの言葉は、すでに亡くなっている人の人生を、過去の写真などから読み解く主人公の行動を、よくいい表しているように思えた。また、「静かな人生」の意味も込められているという。ならば、それは、主人公ジョン・メイの人生そのものだ。
ジョン・メイは真面目で規則正しく、つつましい日々を送っている。週末にデートしたり、誰かと酒を酌み交わしたり、レストランでごちそうを食べて舌鼓をうつこともない。そして、仕事でもプライベートでも、常にひとりぼっちだ。おまけに彼の仕事は、見ず知らずの故人を“おみおくり”することである。
しかし、彼は孤独を感じてはいないし、日々の生活にも満足している。それに、何よりも自分の仕事に誇りをもっている。また、誰に対しても誠意をもって接するジョン・メイは、真面目すぎるせいか、どこかユーモラスだ。だからこそ、ジョン・メイというキャラクターがどんどん好きになってしまうのだ。
ものごとの真髄がまったく見えていない上司や、まるで掃除でもしているかのような“おみおくり”をする女性に腹立たしさを覚えるが、そのおかげで、よりジョン・メイの素晴らしさが際立つ。
そんなジョン・メイが、最後におみおくりすることとなったビリー・ストークは、彼に多大な影響をもたらす人物だった。なぜならばビリー・ストークは、ジョン・メイの真向かいで生活し、人知れず孤独な最期を迎えた人物だからである。そして、ビリー・ストークは短気で無計画で爽快なほど破天荒。関わった人々が、口々に最低な男だといい放つ始末だ。
しかし、その男の人生を辿るうち、また違う側面が見えてくる。破天荒な男の人生の端々には、愛や友情が確実に存在していたのだ。
ジョン・メイは、自分とはまったく違うビリー・ストークの、非凡な人生を感じてみたくなったのかもしれない。ベルトを噛んで体を支えてみようと思ったり、上司の車を見つけやらかしたことが、それを物語っている。
ほんの少しだけ羽目を外し、いつもとは違うこともしてみたジョン・メイ。そして、何よりも今までにはなかったような、嬉しい約束もできた。それらが重なり、心が豊かに大きく膨らんだジョン・メイ。
だから、最期の方で見せた穏やかな表情に、悲しみの色はまったく見えなかった。
あまりにも静かで規則正しい誠実な男の人生に、あぁと感嘆し、熱い涙がこぼれる。
彼にすっかり温められた心は、もう冷めることさえ忘れたようだ。
ライター中山陽子でした。
おみおくりの作法(2013)
監督 ウベルト・パゾリーニ
出演者 エディ・マーサン/ジョアンヌ・フロガット/カレン・ドルーリー/キアラン・マッキンタイア
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