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CINEMAバリQ

【孤独のススメ】
LGBTが一般的なオランダのクスッとホロリな感動作

孤独のススメ 映画あらすじ

オランダの田舎町で、音楽や食、コーヒーやマナーにこだわり、限りなく規則正しい生活を送るフレッドは、最愛の妻に先立たれ、息子とも離れて暮らす孤独な初老の男。そんな彼の前にテオという謎の男が現れ、そのまま家に居ついてしまう。テオはほとんど言葉を発せず、過去も、モノも、こだわりも持たない。また、既成概念というものがないテオは、いつでも自然で自由だった。しかし、そんなテオと生活を共にすることで、フレッドの静かで規則正しい生活は乱れ、おまけに周囲から2人の関係を揶揄されるようになる。だが、それがフレッドの心を解放へと導いていく。

孤独のススメ 映画レビュー

邦題は『孤独のススメ』だが、とくに孤独を勧めているわけではない。むしろ、一般的な概念を取っ払った、人と人との優しいつながりを独特なテンポで描いた映画だ。単調なのにすべてがドラマティックで、ラストシーンの絶景に、シャーリー・バッシーの名曲「This Is My Life(La vita)」があいまって、観ているひとの心を震わせる。

主役のフレッド(トン・カス)は、終始眉間にしわを寄せたストレス顔だ。しかし、なんだか“すっとぼけ”たような所作が、ジワジワとにじり寄るような笑いを誘う。

テオ(ルネ・ファント・ホフ)にしても同じだ。すっとぼけ具合が超越しているだけではなく、「これは、やっちゃダメ!」といった具合に、フレッドがしつけなければテオは本能のままに動く。しかし、なんだかんだいっても素直で、静かで穏やかだ。そのため、ひと懐っこい年老いた忠犬のように愛おしくて、優しく撫でたい衝動にかられる。

この感情は、フレッド(トン・カス)やカンプス(ボーギー・フランセン)にも起こったのだろう。終盤のカンプスの嘆きには、「へぇー」と意外なものを感じたが、彼もまた孤独だったのだ。

物語の舞台はオランダの、信仰篤い人々が暮らす田舎町だ。主人公らに携帯電話など現代的な機器をもたせず、時代を曖昧にしたのは、監督がこの映画を「おとぎ話」のようなものと捉えているかららしい。そのせいなのか、映像から伝わる印象が、木のぬくもりのように心地よい。

また、映画のなかに登場するお菓子やお料理も、心地よい要因のひとつといえる。とてもシンプルで飾り気のない食事風景なのだが、ジューシーなお肉の横に添えられたインゲンやジャガイモ、朝食の大ぶりなチーズひとつとっても、やたら美味しそうなのである。フレッドが客人をもてなす際に、アンティークな缶から“いかにも”大事な雰囲気でとり出すサクサクの焼菓子もだ。

なお、フレッドがスーパーで買いまくるお酒は、典型的なオランダのリキュールらしい。ジンの原型なのだとか。

原題はアルプス山脈に位置する標高4,478mの山『MATTERHORN(マッターホルン)』。この雄大で、ひとを圧倒するほど濃い純度をもつ山の絶景が、画面いっぱいに広がるころ、フレッドの心も長年の“しがらみ”から大々的に解放される。

ちなみに、この映画はLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)関連の映画祭でいくつも受賞しているが、監督いわく、別にそれをテーマにしたわけではないそうだ。なぜならば製作国のオランダは、ずいぶん前からLGBTがごく一般的なものであるから。

世の中の「ふつう」を無意味にして、幸せでいることの感性を手にした自由なテオの存在は「解放の象徴」であり、それこそがフレッドが成し遂げた“しがらみ”からの解放なのだ。

 

ライター中山陽子でした。

 

孤独のススメ(2013)

監督 ディーデリク・エビンゲ
出演者 トン・カス/ルネ・ファント・ホフ/ポーギー・フランセン/アリーアネ・シュルター

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