【アイアムアヒーロー】
主人公に共感できるほど面白くなるホラー映画
アイアムアヒーロー 映画あらすじ
夢を持ちながらも冴えない人生を送る漫画家アシスタントの鈴木英雄は、同棲している恋人の黒川徹子と危機を迎えていた。ただでさえ職場の同僚に溶け込めず、出版社でも無下にされる日々。それでも豊かな想像力で、人々が自分をたたえ、共感してくれる妄想をしながら乗り切っていた。そして、妙な事件が聞こえ始めてきたころ、様子がおかしい恋人(黒川徹子)から電話が入る。そのとき既に、謎の感染が町に広がっていた。
アイアムアヒーロー 映画レビュー
自分は社会でなんの役にも立たない。なにもできない。
そんな風に考えてしまう人間は決して少なくない。そもそも“ひとり”の力だけでは、どんな人間だって大層なことはできないのに、誰もが矛盾に満ちたコンプレックスを抱えてしまう。しかし、世渡りが下手で社交性もゼロの主人公・鈴木英雄においては、そのコンプレックスが堂に入っていた。
この主人公を見ていて、なんとなく思い出すキャラクターがいる。『ゾンビランド(2009)』のコロンバス(ジェシー・アイゼンバーグ)だ。彼は映画のなかで、「僕は臆病だから生き残った」としている。鈴木英雄というキャラクターも、それに近いものがあるが、「臆病なヘタレ」は「慎重で腰が低い」ともいえるのだ。「母親想い」を「マザコン」と一緒くたにしてしまうのと同じ。
とにかく、鈴木英雄は最初から最後まで好感度の高いキャラクターといえる。それを演じているのが大泉洋さんなので、よりその印象を高めている感じだ。
有村架純さんが演じる比呂美の「英雄君といると、なんだか大丈夫そうな気がする」というセリフは、もしかして多くの観客の気持ちを言い表しているかもしれない。絶対的に強いヒーローと、まったくもって完全無欠ではないヒーロー。不思議なことに、その両極端に人々は惹かれる。もちろん鈴木英雄は後者のほうだ。
だが、泣きもしなければ、投げ出したりもしない。守ることも決して諦めない。そういった意味では、愛すべきヒーローとして完璧なのだ。
英雄(えいゆう)と書いて英雄(ひでお)という、自分の名前を説明するたびに苦い思いをしてきた英雄だが、ラストシーンで自分の名前を説明する際、はじめてそのニュアンスを変えていた。そして、それが、ある種の苦悩とともに強さを帯びていたことは間違いない。深い苦悩を抱えた、強く、やさしい男の誕生だ。
大泉洋さんは、この鈴木英雄というキャラクターにピッタリはまっていたと思う。それに、銃を構える姿がまたカッコいいこと!チョイチョイ入れ込んでくる笑いの「間」も絶妙だった。有村架純さんが演じた、冷静で大人な女子高生の比呂美もよかった。終盤、その独特な存在価値を高めるべく、もうすこし活躍してほしかったが……。
ただ、長澤まさみさんが演じるのは、あんな風に男言葉をつかう“はすっぱ”なキャラクターじゃなくてよかった気も……。この映画の原作は漫画であり、既にあるキャラクターだとは思うが、彼女にはあまり似合わなく感じられた。もっと普通にきれいでカッコいい女性役のほうがしっくりくる。不良っぽくて度量がある、魅力的な女性キャラクターを完成させるのは、なかなか難しいのだ。
なお、この映画ではひと言も「ゾンビ」という言語が出てこないが、間違いなくゾンビ感染ものホラー映画である。それゆえに、グロテスクな描写はR15+という現状どおり。でも、そのなかで、地味な腰の低い、やさしい度胸が据わった男の誕生を目撃できるはずだ。
ライター中山陽子でした。
アイアムアヒーロー(2015)
監督 佐藤信介
出演者 大泉洋/有村架純/長澤まさみ/吉沢悠
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