【ペーパーマン】
孤独なひとを照らす暖炉のように温かい物語
ペーパーマン 映画あらすじ
スランプに陥っている作家のリチャードは、美しく知的な外科の妻との関係にも問題を抱えていた。しかも、いい中年になった彼には、幼いころから存在する空想の友人「キャプテン・エクセレント」がいまだ頻繁に現れる。そんな彼を案じた妻は、執筆活動に集中できるようにとロングアイランドビーチへの滞在を計らう。その場所でリチャードは、同じく孤独で心に傷をもつ、さみしげな美少女アビーに出会う。
ペーパーマン 映画レビュー
ちょっと風変わりで、じんわりと沁みる暖炉の熱で温められたような映画だった。一度でも孤独と向き合った経験があるひとならば、やさしく心に刺さるのではないだろうか。
この作品は2009年の作品だが、これまで放置されていたにもかかわらず、2016年12月現在において新作でレンタルされている。その理由は恐らく、大ヒットとなった『デッドプール(2016)』で主役を演じているライアン・レイノルズが、スーパーヒーローの姿で出演しているからかもしれない。
しかし、この物語は、スーパーヒーローものでは一切ない。ちょっぴり……いや、かなり変わった“人のいい”子供おじさんが主役の、心に孤独や傷を抱えるひとたちを照らす、やさしい映画だ。しかも、ジェフ・ダニエルズ、エマ・ストーン、ライアン・レイノルズと、ずいぶん豪華キャストではないか。
ジェフ・ダニエルズが演じる作家のリチャードは、やたらカントリー・テイストな貸別荘のような場所で、毎日馴染みのいいレトロなタイプライターに向かう。しかし、せっかく妻が用意してくれたノートブック・パソコンには目もくれず、自分流を追及しているわりに執筆はいっこうに進まない。
そもそも書き出しの時点で主人公の名前が定まらず、まったく先に進めないのだ。ものを書くひとならば、身にしみて思い当たるシーンかもしれない。自分にとっていい環境をつくり、最適な状況で記事を書き始めるものの、最初の1行ですぐにつまづいてしまう。そして、「どうもしっくりこない」という理由づけをして、書けない言い訳にするのだ。それが、リチャードの場合は“主人公の名前”なのである。
おまけに、書こうとして名前に迷っていると、お決まりのように必ず来客がある。執筆は始まる兆しを、まったくと言っていいほど見せない。
しかし、リチャードがその海近い場所で始めたこともある。それは、美しく寂しげな少女アビーとのピュアな関係だ。アビーを演じるのは、いまノリに乗っているエマ・ストーン。実をいうと、いままで観たどの作品よりも、この映画のなかの彼女はとても美しく感じられた。
リチャードが極まりない孤独感とか、“できる妻”への負い目とか、書けない作家、売れない作家としての自信喪失だとか、自己嫌悪だとかを抱えているとしたら、アビーは過去に起こった事故により、喪失感、後悔や懺悔をつねに抱えている少女だ。
孤独という親近感が2人を結びつける。おっさんと美少女のいかがわしい関係とは程遠い、心の奥底で結びついた関係だ。どう見えようと、きっとこの映画では2人の関係を、親子のような友人のようなプラトニックな恋人のような、それらをひっくるめたような、単純に一括りできないよう描いている。観ている側も、そこに白黒つけようとは思わない。(思うひともいるかもしれない)
孤独とはそういうものだ。ときに本来ならば難しい、人と人との関係を純粋に結びつけてくれる。
ペーパーマンは、孤独な少女をつつみ込む言葉を紙切れに綴り、折り紙にして渡す。ちょっと不思議な少年クリストファーの独特な去り方以外は、衝撃的な事件もドラマティックな展開もない。だけど、その言葉はからだじゅうの毛細血管にまでしみわたった。
ラフで素朴な雰囲気のオープニングとエンディング。やさしく心に入り込む歌。なんの抑揚もなく淡々と、おっさんの奇怪な行動を見せられたかと思えば、外科の妻がざくざくとロブスターを開いたり、リチャードがヒラメを滅茶苦茶にさばく際の、ちょっとブラックなユーモアで笑わせてくれる。
絶滅種の鳥のはなしに共感して涙し、リチャードに酒をおごるバーのマスターや常連たち。
スーパーマンみたいな恰好をした空想の友達は、なぜか自立してほかの存在と会話をする。小さかったリチャードを、40年間なぐさめ励まし、支えてきた空想の友達の去り方は、ちょっぴり下品でデッドプール風だったかも。
ああ、そんなこの映画の、すべてを気に入ってしまった。
とても好きな作品だ。
リサ・クドローが演じた外科の妻は、最後少しだけ童心に帰り、リチャードは少しだけ大人になった。
「ソファーを元に戻すのを手伝ってくれないか?」
はみ出してしまったものは、また元に戻せばいい。
そこからまた、始まるのだ。
ライター中山陽子でした。
ペーパーマン(2009)
監督 キーラン・マローニー ミシェル・マローニー
出演者 ジェフ・ダニエルズ/エマ・ストーン/ライアン・レイノルズ/リサ・クドロー
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