【帰ってきたヒトラー】
もはや笑えないレベルで際どい風刺映画
帰ってきたヒトラー 映画あらすじ
2014年のベルリンにタイムスリップしたかつての独裁者が、成り行きでTV番組に登場。やがて、世間を賑しはじめた彼の名はアドルフ・ヒトラーだった。誰もが彼を風変わりで斬新な物まね芸人だと思い込んでいたが、知らず知らずのうち、天才的な扇動者である彼に国全体が引き込まれていく。
帰ってきたヒトラー 映画レビュー
もっとコメディタッチに描いているのかと思いきや。もはや笑えないレベルで際どい風刺映画だった。しかし、観すすめていくと、なぜ過去に民主主義国家において、ヒトラーという独裁者が生まれたのか言い表されている。
この作品は、ティムール・ヴェルメシュが2012年に発表した小説「彼が帰ってきた(Er ist wieder da)」を映画化したものだ。
映画の前半は、現代にタイムスリップしたヒトラーが、助けられたキオスクで開店準備を手伝ったり、初めて触れたPCで「世界制覇」とネット検索してみたりと、面白おかしく描いている。
また、ヒトラーとフリーのテレビ番組制作者ザヴァツキがドイツを珍道中するシーンでは、国民に対し「いま困っていること」や「民主主義の問題点」を、現代に甦ったヒトラーが真剣にインタビューしている。そして、ヒトラーが語ることは「国を良くするためにはどうしたらいいか」という純粋なもので、聞く限りはおかしな発言はあまりない。
このように、ヒトラーを面白おかしく、なおかつ肯定的に描いているように見えるため、この作品が物議を醸しだしたのは言うまでもない。正直いえば、映画冒頭から「よく、この作品を世に出せたな」と驚いたほど。ナチスが月から攻めてくるという完全なるコメディ映画『アイアン・スカイ(2012)』ならば「しょうもない」で笑い飛ばせるが、この映画の場合は笑わせる要素があまりにも際どく、しかも一般人とのアドリブらしきものまであり非常にリアルなのだ。
日本では単に挙手する姿でも、ドイツではハイル・ヒトラーというナチス式の敬礼に見えてしまうために、ドイツ人が挙手する際は人差し指を立てて小さく腕を上げる。それほど繊細に“黒い歴史”を取り扱っているにもかかわらず、この映画ではガンガンその敬礼が出現する。しかも、その敬礼をしているのは、ごく普通の人々だ。
また、ナチス崩壊とともにヒトラーは拳銃自殺し、その遺体はガソリンをまき焼却された。その事実を含んだ「ヒトラー自身が、ガソリン臭い軍服を現代のクリーニング店に出しいく」という、強烈なブラックユーモアまでブチかましている。
しかし、こうして数々の“笑いにくい”ブラックユーモアを連発しながら、この映画ではヒトラーという独裁者が過去の遺物ではないことを伝えている。
最初は、その人物の話術や情熱、独創的な考え方に人々は注目する。そして、具体的な計画と実行力に希望を見出しリーダーと認め、後に続く。しかし、そのリーダーの向かう先が違うと悟ったとき、すでに民主的な方向修正ができない事態に陥っていたら……。
ましてや、光のような速さで情報が広まってしまうネット社会において、優れた扇動者ならば、いかんなく才能を発揮できるだろう。
そして、そのような危険性が現代の政治・社会にこそあるのだと、この映画は警鐘を鳴らしている。
これはもう、コメディ映画ではなく恐怖映画の領域だ。
ライター中山陽子でした。
帰ってきたヒトラー(2015)
監督 ダーヴィト・ヴネント
出演者 オリヴァー・マスッチ/ファビアン・ブッシュ/クリストフ・マリア・ヘルプスト/カッチャ・リーマン
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