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CINEMAバリQ

【チョコレートドーナツ】
多くの正しいことは失われるが愛は確実に存在し続ける

チョコレートドーナツ 映画あらすじ

1970年代のアメリカ。ゲイが集まるショーパブで働くルディは、検事局(検察庁)で働くポールと恋に落ちた。そんななか、同じアパートに住む楽物中毒の女が逮捕され、その息子マルコが施設に送られる。ダウン症のマルコが母親から育児放棄されていたことを知るルディは、とても不憫に思い心を痛めた。やがて、ルディとポールはゲイカップルであることを隠し、法的にマルコの監護者となる。3人は本当の家族のように、温かく愛にあふれた日々を過ごした。しかし、ルディとポールの関係を疑う周囲が、その幸せを長く続けることを許さなかった。

チョコレートドーナツ 映画レビュー

思っていたよりも猛烈に、ルディ役のアラン・カミング、ポール役のギャレット・ディラハント、マルコ役のアイザック・レイヴァの演技に引き込まれる映画だった。鼻をくすぐる美味しそうな甘い香りと、温かい家のぬくもりに微睡(まどろ)んでいた矢先、心臓をえぐられるような切なさに襲われる。

まだまだ十分ではないとは思うが、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の方々にとって、多少は開かれた時代になったのではないだろうか。

しかし、日本よりだいぶ進んでいるとはいえ、アメリカもオランダほどのLGBT先進国ではない。ちなみに、アメリカのリサーチ会社によれば2014年時点で、「自分の住む国がLGBTにとって暮らしやすいか?」という世論調査を行った結果、123ヵ国中1位はオランダ、日本は50位、アメリカは12位だったそうだ。ましてや、この映画の舞台は1970年代のアメリカである。

この物語は、「障がいを持ち母親に育児放棄された子どもと、家族のように過ごすゲイ」という実話から生まれた。

そして、マルコ役のアイザック・レイヴァは、役柄と同じくダウン症だ。トラヴィス・ファイン監督がインタビューで語っていたように、彼の演技が本当に無垢でシンプルであったため、心を強く打たれた。この映画は、「真実」という不動の骨組みからつくられた作品なのだ。

しかし、ドキュメンタリーのような描写ではなく、集中させる程度の抑揚やエンターテイメント性がある。それが、この作品を映画としてより高めているのかもしれない。ちなみに、アラン・カミングが見せた歌とパフォーマンスはどれも素晴らしかったが、とくに自分の生い立ちを砕けた調子で歌ったシーンでは、そのセンスに惚れ惚れしてしまった。

この映画には悲しみよりも、「怒り」を強く感じる。それは、いつの時代にも共通すること。多種多様な人々の利害に押しやられ、幸せや正義から、かけ離れたところにある『司法と行政』への怒りだ。

そして、最大の怒りの矛先は『差別』である。『司法と行政』の向かう先が人為的に曲げられるとしたら、個々の利害を除けば作用するのはこの『差別』でしかない。

この世に完璧な人間はいないのだから、誰もが何かしら差別を感じたことがあるはずだ。人種だって、生まれたもしくは居住している土地だって、学歴だって、収入だって、容姿だって、性別だって、セクシャリティだって。残念ながら、差別のない世界なんてない。平等なんてものはない。諦めるしかないと思う方がいいときもある。しかし、幾度も行われてきたであろう、この映画のようなことには、身震いするほど怒りを覚える。

ルディとポールとマルコは、ただ「3人で平凡に暮らしたい」と願うだけなのに。

ラストシーンで流れるルディの歌声と、ポールの行動は、守るべき人をまったく守らない“不実な正義の盾”をぶち破っただろうか。手紙を受け取り神妙な顔をしていた人々は、そこに確実な愛があったことを、多少は知ることができたのだろうか。

なんにせよ、多くの正しいことは失われるが、愛は確実に存在し続けるはずだ。

ライター中山陽子でした。

 

チョコレートドーナツ(2012)

監督 トラヴィス・ファイン
出演者 アラン・カミング/ギャレット・ディラハント/アイザック・レイヴァ/フランシス・フィッシャー

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