【SPY TIME ‐スパイ・タイム】
スペイン発のブラックに笑える親子スパイアクション
SPY TIME ‐スパイ・タイム 映画あらすじ
かつては凄腕のスパイだったアナクレートも年齢を重ね、自分に老いや衰えを感じはじめていた。その彼がむかし刑務所送りにした、凶悪犯のバスケスを移送することに。しかし内部から情報が漏れており、移送中にバスケスの仲間から襲撃を受けてしまう。そこでバスケスは去り際に、アナクレートが何よりも大切にしている息子アドルフォの命を奪うと宣言する。それを聞いたアナクレートは、なんとしても息子を守ると心に誓う。一方、息子のアドルフォは、仕事も人生もまったくやる気がなく、ついには恋人カティアにも捨てられ目も当てられない状況に。ところが、バスケスが送った刺客に突如襲われたとき、アドルフォのなかに眠っていた能力が目を覚ます。
SPY TIME ‐スパイ・タイム 映画レビュー
雰囲気ある乾いた土地を走る1台の車。その車のなかに見える姿は、アナクレート役のイマノル・アリアスだ。蝶ネクタイをしたダークスーツ姿は他の人なら完全にジョークだが、ロマンスグレーの彼が着ていると驚くほどセクシーで渋い。とはいえ、そもそもこの映画は完璧にコメディである。
セクシーな初老のスパイが乗る車は、エンジンがショートしてコント並みに煙をあげ、やがて動かなくなる。よって徒歩だ。そして、くわえるのは葉巻ではなく普通のタバコ。しかも電話でかッ。いやいや、電波のない場所だから、きっと特殊な軍仕様の携帯なのだろう……。って、本部の電話も同じようにでかッ。80年代か。
経費削減で、伝説の凄腕スパイなのにボロ車で自ら凶悪犯護送。応援を呼んでもヘリを呼んでも金がかかるからと誰もこない。ずいぶんしょぼくれた情報機関に属する老齢スパイときたら哀愁を感じそうなもんだが、とにかくアナクレートはどこから見てもダンディでカッコいい。
しかし、そのカッコ良さに反して、映画は黒いユーモアで塗りつぶされており、かなり笑わせてもらった。そして、あっという間にラストシーン。最後までスケール感は小さめだったが、スペインのコメディ映画はこんなに面白かったのか! と驚かされる作品となった。
息子にスパイであることを隠すため、ソーセージ職人だと偽りスパイ活動を続けてきた父。その父からの深い愛情に気づかず、底抜けに無気力な青年に育った息子アドルフォが繰り広げる、親子スパイアクションだ。
映画の予告で“ソーセージ職人”と聞いたときから、それが何を意味するのかすぐに想像がついた。案の定、途中一瞬だけ『ファーゴ(1996)』な世界(いわゆるグロテスクな世界)が繰り広げられる。まあ、予告に出ちゃってますけどね。
無意識のうちに凄腕スパイの父に訓練されていたアドルフォの覚醒も面白おかしく描かれていたが、それ以上に楽しませてくれたのは、やはりこの映画のこじんまり感やブラックユーモアだ。
節約のためリーズナブルな家具(たぶんIKEAか)を組み立てる悪党とか、自白剤を飲んだ家族による想像以上の黒い告白とか。情報機関の変な合言葉とか、アドルフォと友人マルティンの激しくバカバカしい無気力な会話とか。
悪党組織はやたら人数が少ないし、郵便局とシェアしている情報機関の建物もやけに古くてしょぼい。とにかく、そんな“こじんまり”系ギャグがすこぶる面白かった。
コメディとはいえ犬好きには抗議されそうなシーンもあるし、アクション的にも大して迫力はない。だが、87分間という短い時間のなかに、演技派でダンディな俳優らによる、スペイン式ジョークとアクションがテンポよく詰め込まれている。
いろんな意味で希少価値が高い映画だと思うので、よろしければぜひご賞味あれ。
ライター中山陽子でした。
SPY TIME ‐スパイ・タイム(2015)
監督 ハビエル・ルイス・カルデラ
出演者 イマノル・アリアス/キム・グティエレス/ベルト・トメロ/アレクサンドラ・ヒメネス
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