【あなたになら言える秘密のこと】
サラ・ポーリーとティム・ロビンスを堪能する映画
あなたになら言える秘密のこと 映画あらすじ
ハンナは工場で働く寡黙な女性。誰とも口を利かず、ただ毎日まじめに働くだけの孤独な日々を送っている。誰かに電話をしても、彼女は言葉を発しない。ある日、半ば強制的に休暇をとるよう上司からすすめられたハンナは、気乗りしないままある港町にやってくる。すると、たまたま入った店で、海底油田掘削所で起きた火事の負傷者を、看護する人が緊急に必要だという話を耳にする。そこでハンナは、自分が看護師であることを告げ採掘所へ行くことに。そこで、重度の火傷を負ったジョゼフに出会う。
あなたになら言える秘密のこと 映画レビュー
仕事場で黙々と働くハンナが、ランチをとる際に補聴器を外している姿を見て、すぐに彼女が心を閉ざしていると察する。彼女は多くを語らないし、人と向き合わないし、興味さえ持たない。しかし、彼女のなかに優しさや誠実さがあるのはすぐわかる。
では、彼女はいったい心にどんな傷を負ってしまったのだろうと、彼女を質問責めにするジョゼフ同様、推測してしまうのだ。
しかし、それが明かされたとき、想像以上の衝撃が襲ってくる。「ひどい」「かわいそう」という言葉では片付けられない。人という枠組みだけを残し、人の中身すべてを破壊しかねない行為を、同じ人間が彼女にやってのけたのだ。
しかも、それは現実に起こったことである。
ハンナはクロアチア難民だ。つまり、ハンナの人生にはクロアチアの内戦が深く影響している。民族浄化の名のもとに、同じクロアチアの兵士により行われた信じがたい行為に恐怖よりも強い憎しみを感じる。
人を人らしくするのは脳の前頭葉だ。なぜならば、この部分が理性を司るから。犯罪性サイコパスの前頭葉は血流値やブドウ糖代謝が低下しているという。また、ストレスは前頭葉を萎縮させる原因になるともいわれている。そして、戦争が人に与えるストレスは計り知れない。それで前頭葉がいかれて普通の人が理性を失ったのか、もともとそういった傾向を持つ人のタガが外れたのかわからないが、とにかく驚くべき虐待が同じ民族によって行われていたのだ。
ハンナを演じたサラ・ポーリーは、その演技力を高く評価されている人だ。しかし、さすがにこの役を演じることには自信が持てなかったという。しかし、スペイン人監督のイサベル・コイシェが、彼女を強く推したのだとか。役作りのため、ハンナのような心の傷を抱えた女性たちをリサーチした際にも、彼女自身ひどくつらさを感じたという。
だが、実はこの映画、その部分だけにスポットを当てた映画ではない。海底油田掘削所のなかで出会う、心に傷をもった2人の男女のラブストーリーなのだ。ウットリするような愛の言葉は出てこない。しかし、目が離せないほど激しい感情の震えや、心を揺さぶるようなセリフがいくつもある。
「泳げるように練習するよ」
ジョゼフの精一杯な言葉が胸を打つ。
映画のなかでは、重度の火傷で一時的に目が見えなくなっているジョゼフと、それを看病するハンナが淡々とやりとりするシーンがたくさんある。だが、そのように限られた動きのなかで見せた、2人の演技は本当に驚くべきものだった。あそこまで自然に、あそこまで感情豊かに、あの役柄を演じられるのは、この2人以外にはいないだろう。
サラ・ポーリーはインタビューでティム・ロビンスのことを、「わたしが今まで共演したなかで、一番の役者でした」と言いきっている。幼い頃から反骨精神旺盛な彼女が言うのだから、これは本心なのだろう。物語の背景は悲しいが、ハンナが油田掘削所の人々と穏やかに交流する場面や、ジョゼフと少しずつ距離を縮めていく姿にはとても癒される。
小さな女の子の声でナレーションの意味や、明かされた真実はかなりハードだが、2人の優れた演技を堪能できるおすすめの映画である。
ライター中山陽子でした。
あなたになら言える秘密のこと(2005)
監督 イザベル・コイシェ
出演者 サラ・ポーリー/ティム・ロビンス/ハビエル・カマラ/エディ・マーサン
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