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CINEMAバリQ

【スティーヴン・キング ビッグ・ドライバー】
美しき作家のブラックユーモア、知性、そして想像力が交錯する復讐劇 ※ネタバレあり

『スティーヴン・キング ビッグ・ドライバー』あらすじ

ある田舎町での講演会に招待されたミステリー作家のテス・ソーンは、その帰り道にタイヤがパンクして立ち往生。そこに通りかかったトラック運転手のレスターが助け舟を出すが――すぐに態度が豹変。その巨大な男は、レイプ殺人の常習犯だったのだ。

抗う術もなく、レスターの凄惨なレイプ行為の餌食となってしまったテス。絶望と、あまりにも深い精神的ショックに苛まれながらも一命を取り留め、自ら犯人を突き止めて復讐することを決意。

存在しない “絶対的な味方” から勇気と助言をもらいつつ、テスはミステリー作家としての才能をフルに使い「謎解きのような復讐劇」を開始した。

『スティーヴン・キング ビッグ・ドライバー』レビュー※ネタバレします!

● 絶望感のなかでも頭の中でプロットを組み立てるミステリー作家

この物語の主人公のテスは、決して不敵な性格ではありません。

しかし、非常に頭がキレて、かつ並外れた客観性を持っています。普通なら暗い排水管で目を覚まし、身体がボロボロ(命を奪うレベルでひどく殴られ、乱暴にレイプされた感覚)で、周囲に死体が転がっていたら、間違いなくパニックになるでしょう。それどころか、理性が崩壊してしまうかもしれません。

しかしテスは、絶望感に苛まれ、嘆きながらも、まず自分の状況を俯瞰してしまうのです。そして、いったん行動を留意する慎重さも備えています。

たとえば、いかにもレイプ被害に遭った姿でたどり着いたコンビニで、誰かに洗いざらいレイプされた経緯や犯人像を電話で伝えているのかと思いきや……自宅に電話し、留守番電話にすべて見たこと経験したこと、客観的な事実を言葉にして “しっかりと記録” していたのです。(コンビニの客に奇異な目で見られてもへこたれずに)

恐らく、忘れてしまわないうちに、そのとき可能な方法で記録しておこうと考えたのでしょう。作家としてのクセもあるのかもしれません。

最初は「何やってんの? 警察に言えよ、病院行けよ」と多少イライラしましたが、徐々に納得できました。彼女はミステリー作家として、完璧なプロットの組み立てを(無意識のうちに)開始していたのです。

いつもは「読者がどう解釈するか、どうすれば納得するか」という視点ですが、そのときばかりは「どうすれば自分がリスクを負わずに、決して捕まらずに、確実に復讐できるか」という視点でした。

こうした独特な側面と、リベンジものとを組み合わせるあたりは、“スティーヴン・キング氏の原作ならでは” かな、という感じがします。

● リスクを頭の中で列挙でき、リスクヘッジも万全なミステリー作家

また、テスは想像力豊かな作家なので、リスクを列挙してから行動することが可能です。「こうしたらどうなるか?」を、あれやこれやと想像してみるわけです。

たとえばこんな感じ。

人々A「自分から誘ったんじゃないの?(コソコソ)」
人々B「あのレイプされた作家よ(コソコソ)」
人々C「自業自得よ(コソコソ)」

また、作品の中では言及されていませんが、「本を売るためじゃないの?」なんてことも言われそうだと考えたかもしれません。

そうしてテスは、「レイプ被害者の作家」として世間に好奇の目で晒されるリスクを避けるため、警察に通報しないことを選択します。もちろん、排水管にいた気の毒なほかの被害者についての通報は、あくまでも「保留」です。

「いずれ(彼女らのことは)通報する。でも、それは “いま” じゃない」と。

そこからテスは、ご近所さんで友人の女性にも、警察にも誰にも知らせずに、自分だけでケリをつけるために奔走するのでした。

● 実在しないが「絶対的な味方」をもつミステリー作家

テスは復讐を決意しますが、よくあるリベンジもののように体を鍛え始めるようなことはしません。なぜなら、彼女には客観性と言語化能力と、「有用な幻視・幻聴能力」があるからです(まあ、それもある意味言語化なんだが)。

彼女を作家として有名にしたのは、ドリーンを中心とした4人のおばあちゃん探偵が活躍する「編み物クラブ」シリーズです。物語の中でテスはファンたちに、このキャラクターのモデルは、「低俗なゴシップが生きがいの一風変わったおば達」だと告げていました。

そのおば達が、いつもテスのそばにいるわけではありませんが(存命なのかも不明)、その姿は、度々テスのそばに現れ、助言等を与えています(主にはドリーンというキャラクター)。

  • 「復讐するなら絶対に捕まらないこと」
  • 「何か見落としていないか」(←こう気づかせるための何かしらの言葉)
  • 「これで少し世界がよくなる」(これは復讐完遂後の言葉)

また――

カーナビを立ち上げると、そのカーナビも常にテスを案じて優しい言葉をかけてきます(トムという名前)。「AIかな?」「アイアンマンのJ.A.R.V.I.S.(ジャービス)かよ」と思いきや、電源を切ってもしゃべり続けていたので、「あ、幻想ね😅」と気づくことができます。

つまり、これらはすべて彼女自身の「脳」がつくりだしていたのです。「客観的な自分の脳内の別人格(ドリーンとトム)が、別の角度から助言をくれている状況)が、可視化されていたということ。

そこにはいないおばあちゃんや、実際にはしゃべっていないカーナビとの会話は、一見すると精神が不安定になっている描写のようにも見えます。しかし、この幻想はテスが冷静でいること、いま考えられることは何かを探ること、抜け漏れがないか確認することに、大きく貢献しているのです。

そもそも彼らは自分自身。

実在しなくても、テスのメリットだけを考え、決して裏切ることはない「絶対的な味方」と言えるわけです。

おばあちゃん探偵ドリーンの「(レイプ犯だけに)股間を狙いな―」という痺れる決めゼリフ。カーナビのトムの「君(テス)がいないと途方に暮れる」という健気な言葉。

テス本人の言葉だとはわかっていても、どちらもグッときてしまいました。

● 圧倒的な存在感のキャラクターたち

この作品は突っ込みを入れられる箇所(幻影との対話や、すぐ通報しないことなど)が多い作品ですが、筆者はこの独特な世界観がとても気に入りました。

テスは社交性も責任能力もある大人の女性で、別にファンタジーの世界に没頭しているわけではありません。自分が少し変わっていることを自覚しつつも、幻影や幻聴と対話しながら、視野を広げ、抜け漏れを防いでいるのです。

つまり、テスにとってドリーンやトムとの対話は「潜在意識の言語化の一手法」とも言えるかもしれません。

そして、もうひとつ特筆すべきは、俳優陣の存在感バツグンな演技です。

テスを演じたマリア・ベロさんは、襲われたショックや恐怖を常にまといながら、幻との対話や内言語による状況整理で客観性を保つという、繊細な内面と屈しない強さを見事に演じていました。

アン・ダウドさんは、なにか含んだような怪しい雰囲気を小出しにしながら、最終的には憎々しさ全開でラモーナを演じていましたし(レスターを演じたウィル・ハリス氏も同じく)――

ドリーンを演じたオリンピア・デュカキスさんは、テスの心を支える母性と上品さを兼ね備えた演技で、生々しい性的暴行の描写を中和させる威力を発揮していました。

また、要所要所でテスの前に現れる凛とした女性たちは、“力の強い暴力的な男たちに屈しない、見えない団結力” を感じさせてくれました。

タラ・ニコデモさん演じる女性警官は、テスを怪しむそぶりを見せながらも、「気をつけて」と、何かを悟っているかのように言葉をかけています。

そして、明らかに何かを感じ取っているような演技をしていたのはバー店主のベッツィー・ニール。演じたのは、なんと元伝説的なガールズバンド「ザ・ランナウェイズ」のジョーン・ジェットさん。

見えている目も、見えていない目も、すべてを見通しているような、そんな表情で “ただものではない雰囲気” を醸し出していました。

孤独な戦いだけど、孤独じゃない。
ドロドロしすぎていない復讐劇です。

よろしければ、ご賞味ください。

(ライターgatto)

『スティーヴン・キングビッグ・ドライバー』(2014)

監督:ミカエル・サロモン
出演者:マリア・ベロ , アン・ダウド , ウィル・ハリス , ジョーン・ジェット , オリンピア・デュカキス

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