【トラップ】
ユニークな視点と演技力が 「そんなアホな」を吹き飛ばすシャマラン作品 ※ネタバレあり
『トラップ』あらすじ
コンサート会場にしては、あまりにも多すぎる警官。そして、無数の監視カメラ――。じつはこのコンサートは、指名手配犯を捕らえるための巨大なトラップだったのだ。
「いまこの会場で、何がよからぬことが起きるのか……?」
だんだんと、落ち着きがなくなるクーパー。
だが、そのとき、クーパーの心のなかを大きく占めていたのは「娘を心配する父親」ではなかった。なぜなら、どこから見ても理想的な優しい父親であるこのクーパーこそが、その罠をかけられた残虐な殺人鬼であるからだ。
追い詰められるクーパー。そこから、彼の精密な世界がひび割れ始める――。
『トラップ』レビュー※ネタバレします!
● いつの間にか “つっこみポイント” を忘れる現象
つっこみどころは満載。でも、すごく面白い映画です。
M.ナイト・シャマラン監督の作品は、いつも視点がユニークなんですよね。「そんなアホな!」と突っ込みながらも、結局はその独特な世界観に引き込まれてしまいます。
この物語は、コンサート会場という「巨大な罠」に、まんまと殺人鬼が引っかかるところから始まります(その時点で警察は顔も身元もわかっていない)。
世の中を震撼させている殺人鬼の確保に、どんなリスクが潜んでいるかもわからないのに――。何も知らない観客を巻き込んで、しかも、そのファンに支えられているアーティストの全面協力があるなど、絶対にありえない状況なんですけどね😅。
また、私服警官が密かに――ではなく、明らかに制服およびフル装備の警官が多すぎるのもどうかと……。「犯人さん、早く気づいて逃げてください」と言っているようなものです。
しかし、この “つっこみポイント” は、鑑賞中に生まれては消え、生まれては消えを繰り返し、最終的には強引に説得されてしまいます。よって筆者はこの作品を、大いに楽しむことができました。
● 物語に入り込むにつれ “脳がバグる” 現象
この映画は、最初から最後までサイコパス目線で物語が進みます。
そのためか、途中でクーパーが家族のために改心するとか、それこそありえない展開を少しだけ想像しました。が、やはりそうはなりません。サイコパス・パパは、最後までサイコパスな殺人鬼のままです。不安や恐怖を感じないこの主人公は、追い詰められてもパニックにはならず、ただゲームをクリアするため(逃げ切ること)に、頭をフル回転させます。
もはや「クズ」としか言いようのない、非道なあの手・この手を使いながら、冷酷かつ合理的にトラップをかいくぐろうとするクーパー。
しかし、そのクズっぷりを軽蔑する感情と、無意識の感情が不協和を起こし、脳が誤作動しそうな瞬間があります。つまり、「こいつは最低なサイコパスだ」とわかっているのに、「なんとか逃げ切ることができるように」と、“いつの間にかクーパーを応援している自分” に気づいてしまうのです。
そのクーパーを演じたジョシュ・ハートネットさんが放つ、猛烈な魅力に毒されてしまったんでしょうかねぇ。笑
同氏は過去にスーパーマン役をオファーされたこともある、高身長で甘いマスクのイケメンで、しかも演技がうまい俳優さん。その超ハイスペックで、「家族思いの消防士の父親の仮面をかぶったサイコパス」を見事に演じています。徐々に、目の色と、笑顔に狂気がにじんでいく演技も、目を見張るものがありました。
魅力を感じるな、というほうが無理な話かもしれません。
終盤、妻にナイフを向けた際に上半身裸だったのは、よう意味がわかりませんでしたが(サービスショットかな?😅)。
● サイコパスは子どもを愛せるのか?
物語の中でサイコパスの主人公は、「(自分の身元が割れたせいで)子どもの成長を見れなくなった」と怒りをあらわにしていました。
よって筆者は鑑賞中、「サイコパスは自己愛が強いから、自分の分身でもある子どもは愛せるのかな?」と勝手に解釈しておりましたが――実際にはどうやら少しニュアンスが違うようです。
ある専門家によれば、サイコパスは自分の子どもを自分自身の延長だと考え、
- 自分の所有物のようにみなす
- 自分のトロフィー(自慢の道具)として見る
- 自分がどう利用してもよい存在だと考える
のだそうです。*1
確かにクーパーも、コンサート会場では娘を利用して逃走を図っていましたし、家族にすべてを知られたときにも、家族を心配するより「上手に区分けていたふたつの人生が重なってしまった」と、自分のことだけを考え落胆していた気がします。
つまり、家族は「自分をよく見せるための最高の道具」であり、「切り裂き魔としてこの世界に生息するための丁度いいい隠れ蓑」だったというわけです。
やはりサイコパスが愛することができるのは、自分だけなのかもしれませんね。
● サレカ・シャマランの歌が心地よく換気?
毎度お馴染みの、「シャマラン監督のカメオ出演」と、その家族の “才能” についても触れておきましょう。
今回監督は、この映画のキーパーソンでもある世界的アーティスト「レディ・レイブン」の親族およびサポートスタッフとして登場します。でも、これリアルな話なんですよね。
この「レディ・レイブン」を演じたのは、監督の実娘サレカ・シャマランさん。実際にアメリカでシンガーソングライターとして活躍している方で、同映画で流れるR&B系の曲も、すべてこのために作曲したといいます。しかも、この作品が彼女の映画デビューなのだそうです。
この事実を知り、思わずシャマラン家のファミリービジネス魂を察知してしまいましたが……。でもね、実際に、すごくいい音なんですよ。
すっと静かに入り込んできて、耳にまとわりついてくる、心地のいいメロディと声。ともすれば、心までどんよりしそうなこの物語も、こうしたバックミュージックに終始 “換気” されていたような感じで、嫌な息苦しさがありませんでした。
言うなれば、「五感に溶け込む、温かくて滑らかなサウンド」といった感じです。ファミリービジネスも大成功、といったところでしょうか👍
(ライターgatto)
『トラップ』(2024)
監督:M.ナイト・シャマラン
出演者:ジョシュ・ハートネット , アリエル・ドノヒュー , サレカ・シャマラン , ヘイリー・ミルズ , アリソン・ピル
*1: The Independent|Why psychopaths cannot love their own children, according to a psychologist
https://www.independent.co.uk/life-style/why-psychopaths-cannot-love-their-own-children-a7938901.html


