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CINEMAバリQ

今日の1本 パプリカ(2006) 岸豊のレビュー


 
私の夢が、犯されている―/夢が犯されていく―」というキャッチコピーが示すように、本作のモチーフは夢だ。夢とは、換言すれば虚構だ。虚構の対義語は事実であり、事実とは現実だ。ここで「虚構×現実」という構図が浮かび上がってくる。思い返してみれば、「虚構と現実」は、たびたび今敏の作品のモチーフとなってきた。
初の監督作品である『PERFECT BLUE』では「アイドルとしての虚構と現実の対比」を通じて、人間心理の闇を強烈に描き出した。
 
二作目の『千年女優』では「役者としての虚構的女性像」を通じて、映画に生きた「本物の女優」の姿を映し出し、本作に継承されるジャンプカットの多用によって美しいアニメーションを描き、映像とドラマの美しさを見事に融合した。
 
三作目の『東京ゴッドファーザーズ』では、『三人の名付親』(1948)を基に、ホームレスとなった男女のそれぞれが隠している秘密と、その裏に見え隠れする虚像と実像(虚構と現実)の対比で人間臭いコメディを紡いだ。
 
一方で連続アニメの『妄想代理人』では、都市に住む人々が巻き込まれる連続通り魔事件を通じて、都市に住む人々の歪んだ精神を風刺した。
 

 
「夢と現実」=「虚構と現実」という今敏の作品の基本構造を受け継ぐ「何でもアリ」の本作で特筆すべきは、「何でもアリ」な自由な表現だ。先述のように、夢とは虚像だ。そして、映画もまた虚像である。映画という映像表現の世界では、夢と同じように「何でもアリ」だ。ストーリーが進行し、謎が解き明かされると新たな謎が明らかになり、先が読めないスリルを与える。そして洪水のように押し寄せてくる、絶妙に戯画化・モンタージュされたアニメーションの数々は、子供の空想のようにメチャクチャで面白い。かと思えば、要所要所で挿入される理解の範疇を超えた文学的で独特な台詞回しも印象的だ。
 
こうした物語上の仕掛けが、それぞれ過干渉して破綻することなく、絶妙なバランスを保っている本作は、観る者の五感にオープニングからラストまで訴え続ける、今まで体験したことのない多彩で新感覚のサイコ・サスペンスなのだ。
 

 
また、本作の映画化にあたって、今敏は原作の「研究所での権力闘争」「院長のカルト的思想」といった要素を適度に削り取った結果に生まれた時間で「粉川を主人公級のキャラクターへ変化」させ、映像表現と独特の言い回しによって展開される対話劇や、映画論への言及と名作へのオマージュを盛り込むことで、エンターテイメント性を高めているのも、映画好きの今敏らしい脚色だ。
 
「夢」をモチーフとした映画で言えば、クリストファー・ノーランの『インセプション』(2010)が傑作として名高い。しかし、『PERFECT BLUE』の発表から本作の構想を練っていた今敏は、ノーランに先駆ける、「映画における夢の語り手」だったのだ。
 
パプリカ
出演:古谷徹, 林原めぐみ
監督:今敏
 

 
 
この世は夢のごとくに候
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