今日の1本 思い出のマーニー (2014) 岸豊のレビュー
スタジオジブリの長編アニメーションで20作目に当たる本作は、美しく幻想的な田舎町での2人の少女の交流を描く。監督は『借りぐらしのアリエッティ』(2010)以来、4年ぶりにメガホンを取った米林宏昌が務めた。
本作で特筆すべきは、ジブリ作品では初の、杏奈とマーニーという2人のヒロインだ。幻想的な湿っち屋敷で出会った2人は、それぞれが抱える心の傷を明かし合うことで互いの距離を縮めていく。彼女たちは『借りぐらしのアリエッティ』での翔とアリエッティのように、劇的なドラマというよりは、何気ない一瞬を共有する。
米林は基本的には『借りぐらしのアリエッティ』と同じ物語の枠組みを採用している。杏奈は翔と同じように、ジブリ作品には珍しい、体が弱い心を閉ざした少女だ。そんな杏奈とは対照的に活発で明るいマーニーは、一体誰なのか、なぜ杏奈と友達になりたいのか、といった謎に包まれた存在として、物語を引っ張る。
『借りぐらしのアリエッティ』でドールハウスやアリエッティたちが使う日用品など、極小のディティールにも芸術的で美しい描き込みを見せた米林の手腕は、本作でも健在だ。舞台となる田舎町の全景はもちろんのこと、マーニーの家に飾られている絵画やステンドグラスなど、鑑賞者が通常の意識レベルでは見逃しがちな細かな部分にも、彼らしいこだわりが見られる。
そして現代性を象徴するような小道具は画面から排除されており、スマートフォンやパソコンといった道具は全く登場しない。これによって、湿っち屋敷を中心とした物語の舞台の神秘性が際立つ。
一方で、久子が描く絵画は本作の重要なモチーフとなっている。彼女が描く絵画はいわゆる印象派のタッチで描かれている。印象派の特徴は、モネやドガに代表されるように、多彩な色が光を受けて溶け合ったような色彩とぼやけた輪郭だ。その手法が意味するものは、何気ない一瞬に宿る刹那的な美だ。つまり、杏奈とマーニーの「秘密の交流」における心温まる描写が、本作における印象派的な美を象徴しているのだ。
最後に明かされる物語のフリップ(どんでん返し)も、劇中における細部の描写からある程度予測はできるものの、プリシラ・アーンが歌う「Fine On The Outside」の美しいメロディも相まって清らかなカタルシスを与えてくれる。
あなたが孤独や閉塞感を感じた時、この作品を観て欲しい。米林宏昌は、宮崎駿が描くジブリ作品とはひと味もふた味も違う、独特で甘美な世界の中で心温まる物語を見せてくれる。
思い出のマーニー
監督 米林宏昌
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