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今日の1本 塔の上のラプンツェル (2010) 瀬戸川豊のレビュー

今日の1本 塔の上のラプンツェル (2010) 瀬戸川豊のレビュー

素晴らしい。いや、見終わって本当に最初に出てきた言葉がこれだった。参った。

ディズニー長編映画50作目に当たる『塔の上のラプンツェル』は、ディズニーの良いところをぎゅぎゅっと詰め込んだ良作だ。記念碑としてふさわしい出来栄えだった。

筆者の家にはディズニーのビデオがある程度取り揃えてあったため、子どもの頃から古いディズニー映画に慣れ親しんで育った。

『ラプンツェル』は今まで見たどの作品とも違う新鮮さがあり、それでいてとても懐かしい。

ブラウン管テレビの前にじっと座っている幼い自分が脳裏に浮かぶような、いや、その頃の自分自身と重なるような心地がした。童心に返る、とはこういう気持ちを言うのだろう。

マザーゴーテルは、最初のアナウンスで暴露されるように、『ラプンツェル』の悪役(ディズニー・ヴィラン)だ。
マザーゴーテルはその性格もさることながら、いかにもヴィランらしい特徴を備えている。

彼女の顔は、瞼が半分閉じ、アイシャドウがはっきりしていて、頬がでっぱっている。
これは『眠れる森の美女』のマレフィセントや、『101匹わんちゃん』のクルエラ、『リトル・マーメイド』のアースラなどの歴代悪女に共通する分かりやすい特徴だ。

また最期に転落死してしまうところもヴィランらしい。『白雪姫』の女王、『美女と野獣』のガストンなども転落死である。

そのマザーゴーテルが、美しい金髪のディズニープリンセスであるラプンツェルを誘惑する様はもはや形式美と言えよう。二人のミュージカルシーンには、古典的な魅力が満ち溢れている。

『アラジン』のアリ王子の行進、『ライオンキング』のハクナ・マタタを始め、掛け合いの楽しいディズニーのミュージカルは映画に欠かせない要素だった。

ちょっと恐ろしいマザーゴーテルと、愉快で個性豊かな酒場の男たちと、大切な人と認めたユージーンと、様々なシーンで挿入されるミュージカルは場面を盛り上げ、観客を映画の世界へと引き入れてくれる。

『ラプンツェル』の世界にぐいぐい引き込まれてしまうのは、ストーリーの起伏がはっきりしているということも大きいだろう。

初めて塔から降りたラプンツェルのテンションが最高と最低の振れ幅を見せるシーンから始まり、展開はどんどん加速する。非常にアニメらしいテンポの良さだ。

酒場での賑やかなコメディの一幕を終えると、衛兵によって崖に追い詰められた窮地をラプンツェルの髪を活かしたアクションで脱出し、水が流れこむ洞窟に二人とも閉じ込められるというサスペンスが起こり、夜になって親密に過去を語らいロマンスが発生し、かと思いきやマザーゴーテルが横槍を入れ…と、とにかく緩急がすごい。なんとも欲張りな脚本である。

それでいてちゃっかり次のシーンに繋がる伏線をはり、観客を置いてけぼりにしないようにしているのだから脱帽する。

ということで「本作はディズニー好きなら見て損なし」というのが結論だ。

ちょっと時間があるな、子どもと何を見ようかな、と思った時には手にとってみてほしい。

塔の上のラプンツェル

監督:バイロン・ハワード、 ネイサン・グレノ

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