今日の1本 トイ・ストーリー 岸豊のレビュー
本作で描かれるウッディとバズのライバル関係は、子供たちにとっては素晴らしい道徳の教科書だ。その一方で、映画というメディアの観点から見ると、彼らの関係は映画の歴史そのものだ。登場するキャラクターはそれぞれが映画のジャンルを象徴している。ウッディはカウボーイなので西部劇、ポテトヘッドやハムはコメディ、グリーン・アーミーメンは戦争、ボーはロマンス、そしてバズは新ジャンルとして登場したSFだ。
映画の歴史は、西部劇で幕を開けた。サイレント映画の名作『大列車強盗』(1903)は、カウボーイたちの活躍を描いた冒険活劇だ。トーキーの登場以降も、『駅馬車』(1939)や『真昼の決闘』(1952)といった名作が映画界を牽引してきた。60年代以降は、『荒野の七人』(1960)や『荒野の用心棒』(1964)などの、いわゆるマカロニ・ウェスタンの登場によって大ブームとなった。カウボーイは、長きにわたって人々の憧れだったのだ。
しかし、70年代をきっかけに、映像表現の可能性が切り開かれ、SFブームが到来する。スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスといった新時代の申し子たちにより、人々はSFに熱狂した。その影で、西部劇の大衆における人気は下火になっていった。
だからこそ、ウッディがバズを貶めようとした気持ちは痛いほどに分かる。しかし、映画の発展のために必要なのは、特定のジャンルを蹴落とすような「陰謀」ではなく、競争を伴う「共存」だ。監督のジョン・ラセターは、この思いをおもちゃの世界に見事に象徴させている。
ランディ・ニューマンによる音楽も最高だ。BGMはそれぞれのシーンでキャラクターの心境を代弁しており、テーマソングの「君はともだち」は「俺~がついてるぜ~」のフレーズとジャズ調のキャッチーなメロディで人々の記憶に深く刻まれた。
ウッディは今までアンディの傍で彼の成長を見守ってきた。そんなウッディにとって、家の外の世界での冒険は、ある種のイニシエーションになっていた。「自分のため」ではなく、アンディのためにバズを救い、彼と共に帰還したウッディは、もう「身勝手な主人公」ではない。彼は立派なリーダーに成長したのだ。
本作は「史上初の3DCGアニメーション」という謳い文句に負けない、素晴らしいストーリーを紡いだ。
本作の登場によって、「命と感情が宿った物質」というピクサーを象徴するモチーフが確立された点からも、極めて重要な作品と言える。
トイ・ストーリー
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