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CINEMAバリQ

今日の1本 グラン・トリノ(2008)gattoのレビュー

グラン・トリノ 映画レビュー

多才すぎるクリント・イーストウッドが監督を務めた映画が、またもやアカデミー賞の各部門でノミネートされているようだ。

私が少し苦手な戦争映画『アメリカン・スナイパー』である。
物語の主人公は実在の人物で元ネイビー・シールズの凄腕スナイパー。

戦争映画はフィクションだろうと、この映画のように実在した人物を描いたものであろうと救いのない現実しか感じられない。
以前、キャスリン・ビグロー監督の『ハートロッカー』を観たときは2日間ぐらい立ち直れなかった。
しかし、いずれの映画もつくる側の意図は叶えられただろう。これらを観たら多くの人が「銃」を手に取ろうとは思わない。

まあ、ともかく、俳優としても長く一線に立ち、監督としても数々の功績を残すクリント・イーストウッドは本当にすごい。
ただ、自身の監督・主演作品で多くの場合が「相当なモテキャラ」であることに不満を感じる。
だって、いつも、若い娘から成熟した女にまでモッテモテの役なんだもん。
(ちなみに私が一番口をアングリさせたモテっぷり映画は『ペイルライダー』)

しかし、そんな疑問点を残さなかったクリント・イーストウッド映画がある。
それは、『グラン・トリノ』だ。

愛車のグラン・トリノを毎日ピッカピカに磨き、それを眺めながらビールをすすることに至福の喜びを感じる頑固ジジイは、悪びれることなく人種差別の目を隣人のアジア系家族に向ける。
息子夫婦とはうまくいかず。かわいげのない孫たちには叱咤のみを送る。

この『グラン・トリノ』でクリント・イーストウッドは、この愛すべき頑固ジジイ、ウォルトを演じている。

物語の途中、息子夫婦が表向きは誕生日を祝うために、いかにも味気ないケーキと、これなら年寄りでも見えやすいからと“ボタンのでかい電話機”と、老人施設のパンフレットを持って訪れたとき、その3点セットを目の前にワナワナと震えついには爆発した彼の演技は本当に可笑しかった。
「もれなく年寄の烙印を押し厄介払いできます」的なプレゼントを喜ぶ老齢者がいるものか。
誰もが年老いてなお心にプライドを育て、自由を求めるものなのだから。

しかし、この血の繋がった家族とのギクシャク感が、他人で隣人でアジア人である「モン族」たちとの温かい交流をより価値あるものに押し上げている。
実のところウォルトは、世間や家族との懸け橋だった最愛の妻を無くし、騙し騙し正当化し続けてきた朝鮮戦争により深い心の傷を負っている孤独な老人だ。

そんなウォルトを「モン族」の家族は“容赦なく”魅了していく。
誰に対しても恩を忘れず、家族との絆を持ち、そして無意味な体裁を保たない彼らは、人種差別主義者だったウォルトの心の隙間をミッチリと埋めていってしまうのだ。

だからこそ大切な友人となった彼らがトラブルに巻き込まれたとき、ウォルトは決心する。
彼が決心した解決方法は、多分、クリント・イーストウッドの意思でもあるのだろう。
銃は誰かを守れない。誰かを殺すものでしかないのだと。

「モン族」の賢くチャーミングな姉スーと、ぶっきら棒だけど心優しい少年タオがとても魅力的だ。
そして、もちろん頑固ジジイを演じたクリント・イーストウッドも。
頑固ジジイに痺れてください。是非ご賞味あれ。

映画と現実の狭間でROCKするgattoでした。

グラン・トリノ

監督: クリント・イーストウッド
出演: クリント・イーストウッド, ビー・バン, アーニー・ハー, クリストファー・カーリー

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