キングスマン/映画あらすじ・レビュー(キック・アス監督マシュー・ヴォーン待望のエッジ効き過ぎアクション映画)
キングスマン あらすじ
いかなる国の干渉も受けないエリートスパイ集団キングスマンは、ロンドンの高級テーラーの陰に存在し日々活動していた。
しかし、このエリートスパイたちさえも脅かす存在が、とてつもない計画を始動したことで何やら不穏な空気が漂い始める。
そんななか、街の不良少年エグジーは、ブリティッシュスーツに身を包んだ英国紳士ハリーによって、秘密組織にスカウトされる。
キングスマン レビュー
マシュー・ヴォーン監督作品と聞いて劇場へ観に行かない手はない。
何故ならば彼が監督し、世界中の映画ファン(の一部)を虜にした「キック・アス(2010)」は、私の好きな映画のなかでも上位に入る作品だからだ。
しかし、この「キングスマン」しかり、「キック・アス」しかり、”超過激アクション”とか”アクションコメディ”といえばそうだが、実のところバイオレンス描写が半端ない。
いずれの作品も眉をひそめる人間が大勢いるだろう。
マシュー・ヴォーン監督は「キック・アス」製作時、あらゆるスタジオとの契約を望んだが、どのスタジオもバイオレンス描写を弱めることやキャラクター設定の変更などを求めたらしい。
しかし、監督は意思を通し自分で資金を調達して映画を製作したのだという。
結果「キック・アス」は全世界で9600万ドル(約77億円)の興行収入を上げ、作品賞や監督賞、女優賞など多くのノミネートや受賞を受けた。
そもそもマシュー・ヴォーン監督は、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ(1998)」「スナッチ(2000)」などガイ・リッチー監督作品をプロデュースしていた人。
そんな話からも想像できるように、その監督がこの作品を手掛けたならば「キングスマン」は一筋縄ではいかないスパイ映画だと想像できるだろう。
たとえ、「英国王のスピーチ(2010)」でイギリス王ジョージ6世を演じ、各賞を総なめにした英国紳士俳優コリン・ファースが主演だからといって安心してはいけない。
もしも「キック・アス」を観てけしからん!と思ったならば絶対に鑑賞しないことをお勧めする。
終盤の巻き返しで「エルガー作曲 行進曲『威風堂々』第一番」が厳かに流れるなか繰り広げられた連続爆破を、「悪趣味の極み」と考える人は少なくない。
しかし、私はこの映画を、悪ふざけが過ぎた勧善懲悪な映画だと思う。
家族を愛し、友人を愛し、犬を愛し、父を誇りに思っていることが伺えるし、倒す相手は民を裏切り保身に走った上層の人間と、その部下たちだ。
もちろん、この映画は残酷なシーンも多いので、善悪の区別をつけられない幼い人間と、前頭葉皮質がいかれた人間は観ない方がいいかもしれない。
(脳の前頭葉皮質は、映画などを疑似体験であると判断し、人間らしい行動と欲求の制御をする場所)。
ただ、被害者がまったく守られない理不尽な世の中の現状とは違い、人を傷つけず貶めない正しくあろうとする人間は守られ、悪い奴らが成敗される映画であることには違いない。
マシュー・ヴォーン監督は根底にある勧善懲悪を、まるで聖人君子のような人間が、礼儀正しく注意するようには描かず、ブラックジョークたっぷりに描いただけではないだろうか。
この映画の見どころは、間違いなくスーツを着こなした英国紳士がキレのいいアクションを魅せることだが、その裏に隠されているメッセージや、ユーモアもたくさんあるようだ。
映画全体が英国テイストのなか、思いっ切りアメリカンな感じをビシバシ放っていた、リッチでインテリでいかれた極悪IT系おじさんヴァレンタイン役は、大作からB級までどんな映画にも出演しまくっているサミュエル・L・ジャクソンが演じている。
ふざけた感じも、相手を見据えた感じも、さすがの迫力と演技力だ。
しかも、彼がマーク・ハミル演じるアーノルド教授を「大っっっ好きな教授」呼ばわりしたりとか、「世界を救おう」という面目でダークサイドに誘っているのだが、ご存知マーク・ハミルは、「スター・ウォーズ」シリーズでルーク・スカイウォーカーを演じていた役者さん。
また、サミュエル・L・ジャクソンも同作のシリーズでメイス・ウィンドゥを演じていたのだから、一癖ある(?)監督だけに、この演出は確信犯かもと想像せずにはいられない。
そして、この映画では、「マナーが紳士をつくる」というセリフが何度か登場する。
貴族の出でも、お金持ちの子でも、貧しい家の出でも、そもそも紳士である人間はいない、マナーが紳士をつくるのだと説いているのだ。
しかし、この言葉には、多くの事実も含まれている。
初代007のショーン・コネリーは労働階級の出であったためジェームス・ボンド役が決まった際、徹底的に紳士のマナーを教わったという裏話があるそうだ。
その話から、この作品のストーリーが膨らんだともいわれている。
それに、アーサー役を演じた、私の大好きなおじいちゃん俳優の一人マイケル・ケインも、今でこそ〝Sir(サー)〟の称号を持つ英国紳士だが、もとは労働階級の出であったらしい。
彼も60年代に「国際諜報局」という映画でちょっとシニカルなハリーという名のスパイを演じていたのだが、今回コリン・ファースが「キングスマン」で演じた名前と同じで、しかも、黒縁メガネとスーツ姿のビジュアルもソックリだ。
いずれにせよ、どんな家の出でもマナーを知ることで紳士が作られるというメッセージなのだ。
そして、映画に出てくるブリティシュスーツ、トラディショナルで格式高いテーラーと、そのインテリア、イギリス紳士らしくステッキ代わりに傘をもつ雰囲気、また、質のいい小物に細工したスパイグッズや武器など、古き良きスパイ映画へのオマージュを強く感じてならない。
しかし、「マナーが紳士をつくる」という言葉に隠されたことは、それだけではないのだ。
実はマシュー・ヴォーン監督、ずっと父親は俳優のロバート・ヴォーンだと思っていたのに、のちに本当の父親はイギリス貴族の末裔だと判明。
映画の最後に、「真のキングスマンがなんたるかを教えてくれた母に捧げる」といったメッセージが映し出される。
多分、マシュー・ヴォーン監督の母へのメッセージだろう。
彼の母が、彼の父の存在を語るとき、監督の胸に響くメッセージがあったのだろうか…。
また、映画のなかで、やたらスノッブ(snob・俗物)という言葉が出てくる。
スノッブは「家柄や教養などひけらかし、下層にいる人間を見下す嫌味な奴」といった意味で使われてきた言葉。
勝手な想像だが、これに関しても監督の想いを多少なりとも感じることができる。
本当に勝手な想像だが、彼は、貴族と庶民のハーフのような感覚を持ちながら、貴族のそんな態度を否定しているのだ。
まったく関係ないが、そこでふと思い出すのは戦後において日本人の誇りと尊厳を崩さなかった白洲次郎が、GHQの人間に「お前はなかなか英語がうまいな」と言われたとき、「あなたも、もう少し練習すれば英語がうまく話せますよ」と流ちょうなブリティッシュイングリッシュでネイティブスピーカーに言い放ったこと。…まあ、関係ないけど(笑)
どんな環境でも尊厳を失わず、マナーを持ち、善を愛すれば、人間は崇高なのだ。
映画が始まると、いきなりそのセンスのいいCGに心が躍るだろう。
ミサイルで崩れた外壁が、転がり落ちながら次第に文字を形成し、冒頭のクレジットを見せていくシーンだ。
そして、アーサー王伝説などに登場する王や魔術師、円卓の騎士の名がついた熟練の紳士スパイと、不良少年から紳士に変貌する青年、メッチャ可愛いワンコ、アメリカンなITおじさんが、ロンドンの高級仕立て屋が立ち並ぶセヴィルロウ(Savile Row)などを背景に、現実離れしたアクションを魅せ、壮大で荒唐無稽なテロ計画をブチのめし、終始ブラックジョークを炸裂させるこの作品。是非、娯楽映画だと割り切って楽しんでほしい。
ちなみに、マシュー・ヴォーン監督の妻はなんとシンディ・クロフォード!クリスティー、リンダ、ナオミ・キャンベルらと1990年代ファッション界の一世を風靡した超スーパーモデルの一人だ。
生きたバービー人形といわれた女性である。
映画と現実の狭間でROCKするgattoでした。
キングスマン(2014)
監督 マシュー・ヴォーン
出演 コリン・ファース/マイケル・ケイン/タロン・エガートン/ マーク・ストロング
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