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CINEMAバリQ

【アイデンティティー】
「そういうことだったのか!?」系の驚愕サスペンス ※ネタバレあり

ふたつの世界が混じり合うとき、驚愕の事実が明らかになる

【あらすじ】

豪雨のなか、一軒のモーテルに偶然閉じ込められた11名の男女。ひとり、またひとりと、謎の死を遂げていく。しかも、その死体はなぜか忽然と姿を消してしまうのだ。

一方、大量殺人の罪で死刑判決を受けた男マルコムに対し、弁護士や医師たちはある特殊な試みを行なっていた。

これらふたつの世界の出来事が、驚愕の事実となって混じり合っていく。

「そうだったのか!?」をダブルで体験できる映画

【レビュー】※ネタバレします!

● 正統派ミステリーかと思いきや

嵐のなかのモーテルという閉鎖的な空間のなかで、絵に描いたように怪しい人々が集まっていく様子は、「これから絶対に何か起こるだろう」というドキドキ・ハラハラ感を与えてくれます。正統派ミステリー好きにはグッとくる展開かもしれません。

しかし、この映画の本当のおもしろさは、まったく違うふたつの世界が同時進行し、それが思いもよらぬかたちで混じり合っていくところ。その「ふたつの世界」は、冒頭のあらすじで示されたとおり(「夜のモーテル」と「死刑囚マルコムと弁護士ら」)ですが、実情はこうです。

 
  • 解離性同一性障害の死刑囚マルコムに対し、弁護士や医師たちは「人格間対決」を行なうよう導いた。
  • 夜のモーテルは「死刑囚マルコムの頭のなか」で起こっていること
  • 夜のモーテルにいた11人は「死刑囚マルコム」のなかにある11の人格
  • その人格のなかに大量殺人の罪を犯した殺人鬼がいる
  • その人格がマルコムの脳内で殺され、理性的な人格が生き残れば、マルコムは無害⇒死刑を免れる
 

そう、マルコムはかつて “多重人格” と呼ばれていた解離性同一性障害だったのです。

ですから、正統派ミステリーを期待した人たちは「夢落ちかいっ」と突っ込みたくなりそうなものですが、これがまた「頭のなかの出来事」だとわかってもおもしろい脚本なんです。

● 人格キャラクターに感情移入

なんせ、夜のモーテルで繰り広げられたサバイバルゲームの参加者は、ひとりの人間の「11の人格」ですから、(混乱しないように?)曖昧さがなくハッキリと性格が違います。必然的に個性が強くなる。

ちなみに――

優しい面持ちのジョン・キューザックさんは、レベッカ・デモーネイさん演じる女優の運転手役で元警官、どこから見てもナイスな悪人顔のレイ・リオッタさんは囚人を護送中の警官役(じつは囚人)、娼婦役をセクシーでキュートなアマンダ・ピートさん、モーテルの主人役をジョン・ホークスさん、新妻役をクレア・デュヴァルさんと、演技派がズラリと並び、さまざまなキャラクターを演じています。

そのため、人格キャラだとわかっていても、このキャラクターと、このキャラクターがくっついて無事に生き残ればいいのに……などと、ルール無視のハッピーエンドまで想像させてしまうのです。

そして――

死刑囚のマルコムを演じているのは、その独特の雰囲気がクセになる(!?)プルイット・テイラー・ヴィンスさん。じつは、筆者がこの俳優さんを認識したのは、まさにこの映画でした。

優しそうな光を目の奥に灯らせているのに、突然何をしでかすかわからないような眼光を放つヴィンスさん。この役は、間違いなくハマリ役だと言えるでしょう。

話を戻します――

筆者は人格キャラに感情移入し、ルール無視のハッピーエンドを想像しました。しかし、その願いは、映画の終盤で木っ端みじんに吹き飛ばされます。

● お前だったのか……

映画のラストシーンで、ひとり生き残ったパリス(アマンダ・ピートさん)は空気がよさそうな農園でひとり、穏やかに時を過ごしています。つまり、夜のモーテルで生き残ったのは、無害な人格のパリスだったのです。それは、マルコムが死刑を免れたことを意味します。

ですから、精神病院に護送されるマルコムの様子もなんだか穏やかです。

がっ……!

しかし……!

そんな穏やかな空気を切り裂く瞬間が訪れます。

映画『オーメン』のダミアンみたいな怖い顔してのっしのっし(小さいんだけどね)、いや、トコトコかな? とにかく、死んだはずの無垢な少年ティミーが、明らかにサイコパス気質を表面化して舞い戻ってくるのです。

「あー、モーテルは頭のなかの話だったのね」で物語の裏を知った気分になっていた筆者は、その新事実を知って「ギャー――――――――――」と叫びましたが、叫んでいるあいだにパリスはダミアン君(筆者がそう呼ぶだけ。実際はティミー君)に仕留められてしまいました。

この瞬間まで、殺人鬼は違う人間だと、その人格は死んだと思わせておきながら、じつは殺人鬼キャラから最も遠そうな少年ティミーが、最強サイコパスの殺人鬼だったのです。

ダミアン顔して現れ、無垢なフリして、じつはこんなことも、あんなこともしでかしていたという事実をダイジェストで振り返りながら、パリスを仕留めるまで何分?数分? 筆者が「ギャー――――――――――」と叫んでいるあいだにそれらが行なわれ、

「ってことは……」

と状況を把握するやいなや、案の定、マルコムは殺人鬼キャラ一択(という言い方でいいのかな?)となり、病院へ向かう車のなかで同乗者に襲いかかります。

つまり、サイコパスな少年ティミーはマルコムのたったひとつの人格として生き残るべく、最後の敵ひとりになるまで、マルコムの心の奥に隠れていたのです。

あぁ、恐ろしい。

● ネタバレしても意外と楽しめる(かも)

なお、このネタバレを知ってしまうと、おもしろくなくなるかと言えば、意外とそうでもありません。先述のとおりキャラが立っていますし、頭のなかで展開されるモーテルのシーンも、普通にミステリーとして楽しめるからです。

そして、何より、最後に登場する少年ティミーのダミアンっぷりが、破壊力抜群。ほーんと、トラウマ級ですから、よろしければ一度ご賞味ください。

(ライター中山陽子)

『アイデンティティー』(2003)

監督:ジェームズ・マンゴールド
出演者:ジョン・キューザック , レイ・リオッタ ,  アマンダ・ピート , プルイット・テイラー・ヴィンス