10月の平均買取価格 8,740円
平均買取点数113点、お客さま1件あたりの平均買取実績です。

CINEMAバリQ

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬/映画あらすじ・レビュー(最優秀男優賞と脚本賞に輝いた宇宙人ジョーンズ初監督映画)

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 あらすじ

国境警備隊員のマイクにより、誤って射殺されたひとりのメキシコ人は、不法就労者であったため、真相も明らかにされないまま埋葬されてしまう。しかし、生前に深い友情を結んだ老カウボーイのピートは、彼との約束を守るため、遺体を掘り出し故郷に運ぼうとする。

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 レビュー

今ではすっかり宇宙人ジョーンズでお馴染みのトミー・リー・ジョーンズ。人間の生態を調べるため、様々な職業の人間に成りすまし、あらゆる場所に潜り込んでいるという設定はうまいもので、もはや広がりは無限大だ。これは、ご存知の通りウィル・スミスと共演した映画「メン・イン・ブラック」シリーズで、トミー・リー・ジョーンズが演じたエージェントKのイメージからきているものだろう。

 

そして、今回レビューを書くのは「メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬」。この作品は、トミー・リー・ジョーンズの初監督となった作品だが、多くの人の心に深い印象を残し、高い評価を得た作品だ。自分もご多分に漏れず、鑑賞あとはしばらく心から離れなかった。

 

観るまえは長い邦題だなあと思い、1985年に発売された、歩きながら食べられる、お湯が要らないカップ麺“アルキメンデス”を思い出していた。そして、当時はカンヌで優秀男優賞と脚本賞に輝いた、トミー・リー・ジョーンズの初監督作品という背景に惹かれ観たのであって、決して「観たい!」という衝動にかられたものではなかった。

 

しかし、鑑賞後は、衝撃を受けるほど魂を大きく深く揺さぶられ、くらくらと目眩がした。セリフ一つ一つに込められた、感情と想い、それらが与える並外れた切なさに、身動きできなくなるほどだった。

 

舞台はアメリカとメキシコの、荒涼たる国境地帯。不法入国者が後を絶たない場所だ。タイトルのメルキアデス・エストラーダとは、殺されてしまったメキシコ人の名前である。笑うと愛嬌がある、温厚で大人しい男。そして、その男の親友ピートをトミー・リー・ジョーンズが演じている。昔気質で武骨なピートとメルキアデス・エストラーダは良いコンビで、多くの時間を共有していた。そのあいだ、ピートは彼から故郷がいかに素晴らしいかを聞かされる。そして、自分が死んだら故郷に埋めてくれと頼まれていたのだ。

 

また、メルキアデス・エストラーダを誤って射殺してしまう、国境警備隊員のマイクはバリー・ペッパーが演じている。トミー・リー・ジョーンズとバリー・ペッパーが、広大で乾いた土地を、異常ともいえる状況で旅を続けるが、この2人の演技がまったくもって素晴らしい。また、旅の途中に出会う人物にも強い衝撃を受けた。

 

外国語のラジオを聴く老人のシーンは、そのあと思い出すだけでも涙が出た。今も書いていて、あまりの切なさに目が潤む。老人が“あること”を懇願したが、ピートにはどうすることもできなかった。それに、演じているのがまたザ・バンドのレボン・ヘルムというから、憎いキャスティングではないか。

 

この映画にでてくる登場人物は、誰もが心に孤独感を抱えている。ある意味、悲劇の中心であるはずのメルキアデス・エストラーダこそが、誰よりも幸せだったかもしれない。自分が死んだら、あれほどまでに自分の願いを叶えようとしてくれる友人は、果して存在するだろうか。いや、居ないだろう。

 

 

また、この映画を再び観たいかといえば、観たいけど、観たくないというのが本音だ。最後のマイクの言葉に深い感動を覚えたが、それと同時に、大寒波並みの切なさが襲ってきた。人は孤独だ。暖炉のように温かい情が、人生で何度でも心を救ってくれるが、やはり、孤独だけは一生逃れられない。

 

 

まるで“夢のなかに出てきた異国”のような印象を受けたメキシコのBARは、なんとも美しく情緒があった。ピートが愛人に電話をかけた場所だ。実在するならば、是非一度訪れてみたいものだ。

 

 

映画と現実の狭間でROCKするライター中山陽子(gatto)でした。

 

 

 

メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬(2005)

監督 トミー・リー・ジョーンズ

出演者 トミー・リー・ジョーンズ/バリー・ペッパー/ドワイト・ヨーカム/ジャニュアリー・ジョーンズ