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CINEMAバリQ

【花様年華】
男女の艶とレトロモダンな雰囲気に酔いしれる映画

花様年華 映画あらすじ

1960年代の香港。新聞社に勤めるチャウとホテルに勤める妻が、あるアパートに引っ越してきた。すると偶然にも同じ日、同じアパートの隣に、商社に勤めるチャンと夫の引っ越しも行われた。2組の夫婦は隣り合わせで住み始めるが、チャウの妻も、チャンの夫も、仕事が忙しくなかなか家に帰ってこない。そのため、チャウとチャンは1人で過ごす時間が多くなっていた。そんな状況をなんとなく察し合うなか、2人は度々会話を交わすようになる。それにより、お互いのパートナー同士が浮気していると確信する。

花様年華 映画レビュー

1960年代の香港は、政治的には不安定だったらしい。しかし、経済的な部分は発展していたようで、60年代から70年代にかけて、世界の最も重要な経済センターのひとつになったという。

そんな60年代の香港を舞台にした『花様年華』は、レトロで質素な部分と、華やかさが混在する映画だ。また、淡々としていて情熱的といいうような、複雑な印象も入り混じっている。
その華やかさや情熱的な印象をもたらすのは、チャン夫人の魅惑的なチャイナドレス姿や、作品のなかに取り入れられている「赤い色」のせいだろう。抑えがたい情念を表すようなその色は、オープニングロールやエンドロール、作中のインテリアや照明、そしてファッションや口紅の色として表現されている。

ただ、この物語は、赤い色が象徴するような男と女の激しい情念を描いているわけではない。奥ゆかしくてエロティックな、香り立つほど熱い「プラトニックな恋」なのだ。物理的な意味合いではなく、精神的な部分でのプラトニックだ。

まだしっかりと整備されていない60年代の香港で、ひと際目を引く洗練された男と女。気だるい音楽とたばこの煙。見えそうで見えないアパートの全容と、お互いのパートナーの顔。説明のないストーリーを状況だけで追うじれったさ。息が詰まるほど色っぽい視線のやりとりと、艶っぽい人妻の横顔。そして彼女の肩甲骨からヒップまでのライン。この混沌としたすべての素材をウォン・カーウァイがじっくりと調理し、「ひとつの愛のかたち」という料理を完成させている。

伏線を残しながら曖昧な時系列が交差し、親切な描写も説明もないこの映画には、さまざまな憶測が生まれるかもしれない。物語の展開だけを気にするならば、「あー、じれったいなぁ、サッサとくっついちまえ」という感情も生まれなくもない。しかし、この映画はその部分がすべてなのだ。

男と女が何度も迷い、決意し、またそれが揺らぐ。心が激しく揺さぶられ、静かに深く傷つく……。ウォン・カーウァイ監督の作品を好む人は、ただそんな男女の切ない恋愛模様を堪能して、なにも追求せず、その雰囲気だけを楽しむ心構えがあるかもしれない。

とはいえ、白黒つけなくても、さすがに終盤の展開については憶測したくなるというもの。筆者もあるひとつの解釈には達しているが、多分それは誰もが解釈しているようなことだ。この映画にはあまりそぐわない表現だが、よくある男女のはなし……ともいえる。

しかし、それをよくここまでムードたっぷりに描いたと思う。ただ単にお洒落な雰囲気というだけではないのだ。上っ面ではなく根をはる何かがある。ウォン・カーウァイ監督は人の視覚に深く入り込み、心底ウットリさせてしまう天才なのだろう。

だが、変な話、ウットリと同時に食欲も刺激されてしまうかもしれない。

モダンな男と女が食すものは、屋台らしきところからテイクアウトする“麺もの”や“おこわ”だ。ときには給仕らしき人物の、「ワンタンを作るから一緒に食べる?」なんてセリフもある。香港料理を食べたことがある人ならば、その美味しさをついつい想像してしまうだろう。また、個人的には冷めているように見えて“そそられ”なかったが、チャン夫人がマスタードをつけながら食べているレアなステーキを、美味しそうだと感じた観客も少なくないようだ。

こんな締めでいいのかわからないが『花様年華』は、洒落た男女のムードに酔いしれ、ついでにお腹が空くという、なんとも特異な映画なのである。

ライター中山陽子でした。

 

花様年華(2000)

監督 ウォン・カーウァイ
出演者 トニー・レオン/マギー・チャン/スー・ピンラン/レベッカ・パン

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