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CINEMAバリQ

【リンカーン/秘密の書】
大国の歴史がからむ興味深いヴァンパイア映画

リンカーン/秘密の書 映画あらすじ

アメリカ中西部インディアナ州に暮らす白人少年エイブラハム・リンカーンは、借金のかたに両親とともに肉体労働を余儀なくされていた。ある日、友人の黒人少年ウィルと、彼をかばおうとしたエイブラハムが暴行されそうになったため、エイブラハムの父は雇い主側の男を殴ってしまう。それを雇い主のジャック・バーツに責められるが、父は屈しなかった。だが、その深夜エイブラハムは、ジャック・バーツが眠っている母に忍び寄っている姿を目撃。すると母は、原因不明の病で急逝してしまう。それから時が過ぎ、父もこの世を去ると、エイブラハムはジャック・バーツへの復讐を果たそうと決意する。しかし、バーツは明らかに人間ではなく、驚異的な力でエイブラハムを攻撃。すると謎の男ヘンリー・スタージスが現れて彼を助け出し、ヴァンパイア・ハンターとして訓練をはじめる。

リンカーン/秘密の書 映画レビュー

特殊メイクによる主人公の大きな鼻と、燃え盛る列車など迫力あるアクションシーンがとても印象に残る映画だった。世間の評価はすこぶる低いが、歴史を絡めた奇想天外なストーリーが非常に興味深く、アクションも見ごたえあったので自分は楽しむことができた。

もっとも偉大な大統領の一人と言われ「国民の国民による国民のための政治を地上から決して絶滅させないために、われわれがここで固く決意する」というあまりにも有名な民主主義の基礎を主張したのは、第16代アメリカ合衆国大統領のエイブラハム・リンカーン。そして、今作品はそのリンカーン大統領が、ヴァンパイア・ハンターだったというアクション・ファンタジー・ホラー映画である。

エイブラハム・リンカーンといえば、大統領として奴隷解放を行い、南北戦争による国家分裂の危機を乗り越えた人物だ。実はこの映画、それにヴァンパイアの存在をかましている。奴隷制度でとらわれた黒人は労働力のみならず、ヴァンパイアの食事にもなっていたということなのだ。つまり、奴隷解放宣言はアメリカ南部の反発を招いただけではなく、食事を失ったヴァンパイアをも南北戦争にかりだす要因になったということ。それゆえに、この映画で描かれる南北戦争はヴァンパイアと人間の戦いだ。

また、実在の人物や、それを思わる人物も登場させているが、そのなかで興味深い関係もある。

この物語でエイブラハム・リンカーンが、ヴァンパイア・ハンターとして人並み外れた身体能力と戦闘技術を備えることができたのは、ヘンリー・スタージスという謎の男のおかげだが、それは政治家のヘンリー・クレイという実在の人物から名前をとったのかもしれない。実際のエイブラハム・リンカーンが師と仰いだヘンリー・クレイは、徹底的にインディアン排除論者だったという。

実は、エイブラハム・リンカーンも、そのヘンリー・クレイも身内をインディアンによって殺されている。それゆえに、彼らのインディアンに対する憎しみはとても深い。リンカーンは奴隷を解放したが、インディアンに対しては大量虐殺を指示したという。そう考えると、この映画ではインディアンの代わりがヴァンパイアなのかもしれない。

もしも描かれているのがインディアンであれば感情は複雑になる。身内を殺されたエイブラハム・リンカーンやヘンリー・クレイには同情するし、もしも同じ立場であれば自分も必ず復讐を考える。しかし、そもそも彼らの祖先である白人入植者が、無垢だった先住民が生活していた場を奪い、略奪、惨殺、強姦を繰り返した結果もたらした憎しみ合いだ。

その点、共通の憎むべき相手がヴァンパイアならば、わだかまりがない。そういった意味で、歴史という、勝者や解釈者によって違う産物を、ファンタジーとして気兼ねなく楽しめる部分が、この映画の興味深いところだ。ちなみに、この映画の原作は小説『ヴァンパイアハンター・リンカーン(セス・グレアム=スミス)』である。

小説と同じかもしれないが、映画に登場する幼馴染のウィルは、リンカーンと法律事務所を共同経営した実在の人物ウィリアム・ハーンドン、また、スピードはリンカーンと雑貨屋を共同経営した実在の人物ジョシュア・フライ・スピードだと思われる。

なお、『キャプテン・アメリカ』シリーズや、テレビドラマ『エージェント・カーター』では、若かりし頃のハワード・スターク、いわゆるアイアンマンの父を演じているドミニク・クーパーや、同じく『キャプテン・アメリカ』シリーズでファルコンを演じているアンソニー・マッキーが出演しているので、マーベルファンにはちょっぴり嬉しいキャスティングだ。

アメリカは新大統領が就任し「アメリカの、アメリカによる、アメリカのための政治」が地球を大混乱させちゃいそうな勢いだが、そんな国の大統領がヴァンパイア・ハンターだったら……なーんて、とんでも発想をポップコーンでもかじりながら、娯楽として楽しんでみてはいかがだろうか。

 

ライター中山陽子でした。

 

リンカーン/秘密の書(2012)

監督 ティムール・ベクマンベトフ
出演者 ベンジャミン・ウォーカー/ドミニク・クーパー/アンソニー・マッキー/メアリー・エリザベス・ウィンステッド

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